火星地表面は数十mの厚さのレゴリス層で覆われており、その高い空隙率と吸湿性から大気と地下の水の分布に大きな影響を与えると考えられる。そこで我々は、静力学火星大気大循環モデル(DRAMATIC MGCM)の水循環過程に地表のレゴリスによる水の吸着効果を導入した計算を進めた。具体的には大気~レゴリス間の水のやり取り、レゴリス内の水拡散・吸着・凝結(それに伴う空隙率と地面熱伝導率の変化も考慮)の過程、レゴリスの粒径分布を熱慣性のデータから見積もった上で分子拡散とクヌーセン拡散を考慮したレゴリス内の水の鉛直輸送を導入した。結果については大気中の水蒸気の吸着量などにまだ改善の余地があるが、定性的な緯度分布についてはMars Odysseyの熱外中性子フラックス分布からの見積もりと大まかには整合する結果が得られており、研究代表者の指導学生(古林)による国際2件(JpGU・AGU Fall Meeting)・その他2件(SGEPSS秋学会・惑星圏シンポジウム)の学会発表を行った。また研究代表者は、本研究課題で遂行した既発表論文の内容を中心とした3件の国際学会発表(国際火星大気モデリング観測会合・COSPAR・AGU Fall Meeting)を行った。さらに非静力学正20面体格子モデルSCALE-GMを火星化した全球超高分解能計算は、水平分解能0.9kmの地形入り計算を実現するまでに至った(樫村他、研究代表者を共著者としてJpGU・日本惑星科学会・日本気象学会で発表)。 4年間の本研究課題を通して火星大気全球高分解能シミュレーションの構築と活用は当初の期待通りに行われ、様々な条件の下での火星における大気重力波の励起・伝播とその上層大気に与える影響、将来探査にも示唆を与える表層の水環境について計5編の査読論文発表がなされた。また課題終了後も、観測との連携を通しさらなる成果創出が見込まれる。
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