研究課題/領域番号 |
19K03981
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小林 大洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (10360752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南極底層水 / 長期トレンド / メルツ氷河舌崩壊 / レジームシフト |
研究実績の概要 |
本研究では、歴史的観測データおよび最近の船舶および深海用フロートによる観測データを用いて、豪州南極海盆ウィルクスランド沖(110°E付近)における南極底層水の時間変化、特にメルツ氷河舌の崩壊に起因した「レジームシフト」的変化の有無やその詳細を明らかにする。さらに、アデリー海岸沖(140°E付近)で確認された変化との差異から、「レジームシフト」的変化の伝播の詳細を検討することにより、豪州南極海盆における南極底層水の循環や変質過程を定量的に明らかにする。 2020年度は次のような研究を実施した。(1)対象海域における船舶観測データの収集および深海用フロート観測データの品質管理を行い、観測データセットの整備を進めた。(2)整備した観測データセットを元に、対象海域内に設定した仮想的な定点における水温・塩分・溶存酸素の長期の時系列データを作成した。(3)時系列データから南極底層水の層厚減少の長期トレンドおよび2010年以降の変調を確認し、その変調が実際に生じていることを断面観測データから確認した。(4)南極底層水の層厚減少の長期トレンドを、海洋深層の温暖化と低塩化に起因した成分に分離し、それぞれの特徴を明らかにした。(5)同様の解析をアデリー海岸沖に適用し、両海域の違いを明らかにした。これらの解析により、従来の知見にない興味深い研究結果が得られている。 これらの解析結果は、国内研究集会で2回発表した。また論文の執筆を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
不足していた船舶データおよび未整備の深海フロートデータの入手・整備が完了し、解析領域において2010年以降に行われた観測データのほぼ全てを網羅するデータセットを完成させた。このデータセットを元に仮想的定点の時系列データを作成し、南極底層水を含む深・底層水塊の経年変動等に関する解析を進めている。 しかしながら、別の研究案件で投稿中の論文のリバイスに予想以上に時間をとられたため、本研究に十分な時間を割くことができず、研究の進行は遅れ気味である。また、コロナ感染症の感染拡大を防ぐために自宅でのテレワークを強いられたために研究環境が変化し、それに対応するのに時間を要した。特に、自宅周辺のネットワーク環境が貧弱なために、機構内に設置の大型計算機を利用して行っているデータ解析は、操作性の悪さから現在でも思うように進めることができずにいる。 また、得られた解析結果の物理的意味の解釈が十分にできずにいるため、研究の進展が滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
対象海域で得られる長期の時系列データの精緻化を進め、南極底層水の経年変化をより精密に明らかにする。さらに2010年以降の「レジームシフト」的変化を詳細に明らかにする。特に、深層の温暖化と低塩化という、異なる原因を持つ変化トレンドが、南極底層水の経年変化にどのように影響するのかという点に重点を置いて解析を進める。これらの結果をまとめて2021年度中に論文として投稿する。 これに続き、この「レジームシフト」的変化を、アデリー海岸沖で確認された変化と比較することで、その変化の伝播特性等を明らかにする。その結果に基づいて考察を進めることにより豪州南極海盆内の南極底層水の循環・変質について、定量的理解を目指した解析を進める。この豪州南極海盆における南極底層水の循環・変質に関する解析結果は、研究集会等で発表するほか、2022年度中に論文にまとめて投稿・刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内および国際的なコロナ感染症の感染拡大により、予定されていた国内・国際学会の開催が中止またはバーチャル化されたため、学会参加費や学会参加のための旅費の支出がなくなったこと、研究の進展の遅れのために論文を完成させることができず、投稿前の英文校正費などの関連する支出がなかったこと、の2つの理由による。 2021年4月時点において、2021年度後半にいくつかの国際学会および国際ワークショップが予定されており、そこでの研究発表をおこなうための学会参加費および旅費に利用する。また2021年度中に作成予定の論文の英文校正等に支出する。
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