研究課題/領域番号 |
19K03982
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
古屋 正人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60313045)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 永久凍土 / 合成開口レーダー干渉法 / 森林火災 / シベリア / 地盤変動 / サーモカルスト / InSAR |
研究実績の概要 |
2014年7月にロシアのサハ共和国バタガイの近郊で発生した森林火災に伴う永久凍土の融解が引き起こす地盤変動を衛星搭載合成開口レーダー(SAR)画像の干渉処理(Interferometric SAR/InSAR)によって検出した.アラスカの森林火災後の凍土融解に伴う地盤変動を検出した事例はあるが,バタガイクレータで有名なシベリアの内陸の傾斜地であること,ALOS2とSentinel-1という複数のSAR衛星を用いたこと,時系列解析に基づく火災後4年間の変動の推移,火災跡地で特に明瞭な初冬の凍上シグナルの検出が新たな知見である.また過去の北極圏の火災後に見られたActive Layer Detachment Slideや傾斜地の凍土融解で特徴的なThaw Slumpは検出されず,ほぼ鉛直方向の沈降である. 凍土地帯における「地表隆起」のシグナルをGNSSで捉えた研究では,その場の土壌に含まれている水分の凍結に伴う体積膨張という「相変化モデル」で解釈されている.一方,凍上のメカニズムは実は水の相変化だけでは説明できないことが1920年代から知られており,水は砂粒などの固体粒子との境界では通常の融点以下になっても不凍水として存在し,その不凍水の動きで凍上を説明するPremelting theoryは最近2-30年で確立された.Rempel et al(2004)の一次元モデルを用いて,現実的な浸透率(10の-17乗)で凍上速度を説明できることがわかった. また,累積沈降データをLandsat画像に基づく焼失深刻度(Burn severity)と12メートルメッシュ数値標高図(DEM)と比較した結果,焼失深刻度は比較的一様であるのに対し,沈降量は空間的に不均一で,ガリーの発達した東斜面でより大きな沈降量が見られた.地表のガリーの発達は東斜面では活動層が薄いを反映している可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
InSARデータの解析と解釈については,時系列解析の導入,火災深刻度,詳細な地形分布との比較により,当初は予期していなかった知見も得られた.火災後5年を経て,沈降速度は鈍化しているが,初冬には依然として火災跡地での明瞭な凍上が見られ,融解水が排水していないことを示唆する.Landsat画像に基づいて火災深刻度を調べたところ,沈降域の振幅分布に比べて一様であり,火災が起きていても沈降が殆ど進展していないところがあることも明瞭になった.沈降振幅が大きいところが東向き斜面に多く,しかもガリーがよく発達していることにも気づいた.これは東向き斜面では日射量が少ないため,活動層厚が薄く,凍土層(地下氷)がより地表に近いためと考えられる. 一方,InSARデータのモデリングについては,凍上シグナルについては妥当な物理的モデルを適用しつつある反面,沈降シグナルについてはやや遅れ気味である.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画ではバタガイ以外の領域の地盤変動を調べる計画だったが,2019年の夏にはシベリア全域で大規模な森林火災が発生し,当該地域のバタガイでも一週間空港が閉鎖されるほどの被害が生じた.2018年にも規模は小さいが,バタガイクレータの近傍で一件の森林火災が発生した.これまで対象としてきた2014年火災跡では,火災後の最初のデータが一年以上経過した2015年10月であり,初期の地盤変動のデータは時間分解能が粗く,大きな地盤変動を見落としていた可能性がある.2018年と2019年の火災跡では顕著な凍土の融解とそれに伴う地盤変動が予想できることから,最近の火災跡の地盤変動をALOS2とSentinel-1で追跡する. 観測データの解釈とモデリングについては,今年度から蟹江俊仁氏(北大工学研究院)に分担者に加わって頂き,凍土帯での熱・流体移動を現実的に考慮した地表の地盤変動を再現することを目指す. 今後数年間の推移を調べるためには衛星画像解析データの検証のための現地での目視調査,現地の気温・地温・土壌水分・融解深データなども必要である.2019年9月には予備的な現地調査を行ない,(2022年度以降も)ロシアの研究者とも共同で定期的に実施する方針である.
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