研究実績の概要 |
海底熱水鉱床は、有用元素が熱水溶液から沈殿、濃集して形成されると考えられているが、有用元素の起源や濃集機構に関しては、未だ良く分かっていない。海底熱水鉱床に広く存在する銅の安定同位体組成は、銅鉱床の成因の解明に有効な指標である。本研究では、海底熱水鉱床試料に含まれる銅の安定同位体組成を高精度で測定し、海底熱水鉱床の形成機構を探ることを目的とする。本年度は、沖縄トラフや伊豆・小笠原・マリアナ弧及び周辺海域のいくつかのサイトで採取された試料(塊状硫化鉱物、熱水変質鉱物、火山噴出物など)に含まれる各種含銅鉱物(黄銅鉱など)の銅同位体組成{ある試料の銅同位体比は、米国国立標準技術研究所の銅板標準試料(NIST976)の同位体比と比較して千分率(‰)で示す}を多重検出器型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)により測定した。その結果、本研究で対象とした各種含銅鉱物の銅同位体組成は、先行研究で報告されている現世の海底熱水鉱床に産する各種含銅鉱物の銅同位体組成(-1~+3‰: Zhu et al., 2000; Rouxel et al., 2004)の範囲に含まれ、特異な値は示さなかった。黄銅鉱や銅を含む黄鉄鉱、閃亜鉛鉱の鉱物組織と銅同位体組成との比較から、これらの鉱物の晶出に関与した熱水流路の推定を行うことができた。銅の起源は、母岩であると考えられるが、各サイト内の銅同位体比の変動幅は、主に母岩からの銅溶脱時、銅を含む熱水の上昇時、銅鉱物の晶出時の同位体分別に起因することが示唆された。
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