本研究の目的は,活火山地域の温泉水から微生物作用により恒常的に沈殿する二酸化マンガンを主な対象に,古地磁気・岩石磁気学の手法から,堆積環境や堆積年代を推定し,火山静穏期を含む火山活動の推定を試みることである.北海道駒ケ岳の麓にある旧駒の湯温泉及び北海道旭岳温泉周辺にて採取した表層コア試料を対象に研究を行った.旧駒の湯温泉のコア試料では,池底面からの深さやコアの採取位置によらず主要な磁性鉱物が同一であることが示された.なお,池底面からの深度による飽和磁化・飽和残留磁化の変化は,コア中の有機物による希釈効果と考えられる.また,同様な深度で超常磁性粒子の変化が認められ,希釈効果の要因である有機物による初期続成作用の影響が示唆される.旭岳温泉域のコア試料では,沼底面からの深さによる磁性鉱物の種類や粒径に顕著な変化は認められなかった.いずれの二地点においても主要な磁性鉱物は深さやコアの採取位置によらず顕著な変化が認められないことから,旧駒の湯温泉及び旭岳温泉では,マンガン土が沈殿を開始して以降,温泉水の経路や火山の状態に顕著な変化がないことが指摘できた. 今後の温泉沈殿物の古地磁気・岩石磁気研究につなげることとして,鉱床と火山の関連性を明らかにするため,カナダGrum鉱床の古地磁気・岩石磁気解析を行った結果,約176 Maの古地磁気年代を得た.Grum鉱床の成因として,近傍の白亜紀Anvil深成岩体の貫入が指摘されていたが,深成岩体は鉱床の形成に関与しておらず,ジュラ紀の構造運動に伴う形成を明らかにできた.既報の結果と対比することで,Grum鉱床が位置する Selwyn堆積盆全域がジュラ紀に鉱床形成に関連する熱水流体の貫入があったと示し,鉱床に対し古地磁気・岩石磁気の手法の有効性を明らかにした.
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