研究課題/領域番号 |
19K03990
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
小嶋 智 岐阜大学, 工学部, 教授 (20170243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 山体重力変形地形 / 地すべり / 上高地 / 井川峠 / スイスアルプス |
研究実績の概要 |
令和元年度には,主として南アルプス南部の井川峠地域,北アルプス南部の上高地地域,スイスアルプスの3地域において野外調査を行った. 井川峠地域において予察的な調査を行い,基盤岩は主としてスレート劈開の発達した泥質岩からなり岩盤クリープによる変形が発達していること,稜線上には多重山稜が顕著に発達すること,多重山稜の間の凹地は礫質堆積物により埋められていることが明らかとなった.また,そのうちのひとつの凹地においてハンドオーガーボーリング掘削を行い堆積物を採取したところ,深度1m付近に約3200年前に噴火したカワゴ平起源のテフラを見出した. 上高地地域における調査は継続的に行なっているが,令和元年度には山上凹地埋積堆積物の年代を正確に決定するために,焼岳起源のテフラのキャラクタリゼーションを目的に,試料採取をおこなった.また,これまでの地形調査の結果を取りまとめ,論文化の準備を行なった. 日本の山体重力変形地形と氷河地形の発達する地域の山体重力変形地形の比較を行うために,スイスアルプスのBedretto地域において予察的な野外調査を行なった.その結果,当該地域には,最終氷河に形成されたU字谷があり,その側壁および遷急線より上の緩斜面には顕著な山体重力変形地形が発達することを確認することができた.その詳細について,今後,ローザンヌ大学の地形学者やBedretto地域を含む州政府の研究者らと共同研究を進めるべく準備を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の概要で述べたように,令和元年度には,日本国内の2地域,スイスアルプスの1地域において野外調査を行うことができ,当初の計画以上に成果を挙げることができた.特に,スイスアルプスにおける調査は,研究計画を立てる時点では想定していなかったが,令和元年度(平成31年度)初頭に,同じ造山帯でも,最終氷期に著しい氷河作用を被った地域とそうでない地域では,過去1万年間の山体重力変形地形の発達には大きな違いがあるのではないかという仮説を立てるに至り,急遽令和元年9月に現地調査を行なった.この点では,当初の計画以上に進展しているということができる. 一方で,当初計画していた衛星データを用いた山体重力変形地形の微小な移動の抽出については,InSAR画像やLandsat画像の解析を検討したが,移動量に対して十分な精度の差分を得ることができるデータの取得が難しくあまり進展していない.今後は,衛星データ解析の専門家の助けを受けながら,検討していく予定である. 以上のように,当初の計画以上に進展している部分とやや遅れている部分があり,全体としてはおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き南アルプス井川峠地域の野外調査およびハンドオーガーボーリングや滑落崖における試料採取を行い,山体重力変形地形の発達過程を明らかにする.滑落崖における調査では,ドローン利用の可能性を探る. 北アルプス上高地周辺の多重山稜地形の発達史を明らかにするために,焼岳起源の火山ガラスの化学的特徴を明らかにする.これまで行なっていた偏光顕微鏡観察,屈折率測定に加え,EPMAやレーザーアブレイジョンICP-MSを用いた,微小領域の化学組成,同位体比の測定を行い,火山ガラスのキャラクタリゼーションを行い,より精度の高い対比を目指す. スイスアルプスでは,Bedretto地域において野外調査を行い,山体重力変形地形の発達史の解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の薬品やデータ解析用機器の納期が,コロナ禍等で遅れたため.令和2年度には購入する予定である.
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