研究課題
2022年度には,国内では上高地周辺の山体重力変形地形(以下,DSGSDと略す)の形成年代を明らかにするための調査・研究と福島県のスプレッド型地すべりの形成メカニズムを明らかにするための調査・研究を行った.また,海外調査も行うことが可能となったので,春に東ティモールの斜面災害全般に関する調査を行い,秋にはスイスアルプスにおけるDSGSDの調査・研究(経費はスイス負担)を行なった.後者は,氷河期に厚い氷河に覆われていた地域において,氷河が後退した後にどのようなDSGSDが発達するかを明らかにしようとするものである.これら二つの海外調査は計画時点(5年前)では想定していなかったものであるが,研究を進める中でその必要性が生じたために行なったものである.本研究の結果,日本におけるDSGSDの発達史の概略を掴むことができた.日本においては,最終氷期極大期後の急激な温暖化・湿潤化により,奥美濃地域のような1,000m程度の氷河に覆われなかった低標高の山岳を含め,山体が不安定化し多くの地すべり(広義)が発生し,不安定化はしたものの地すべりにまでは至らなかった部分が,現在のDSGSDとして残っていると推定される.したがって,日本に分布する規模の大きなDSGSDは,過去10,000年間に渡って安定して存在していたものであり,近い将来の地すべりの予測には利用できないと考えられる.一方,本研究では実際に地すべりを引き起こした場所が再度地すべりを発生させた例として,岐阜県郡上市大和町の地すべりを,現在でも地すべりを繰り返し起こしている例として静岡市葵区口坂本の地すべりを調査・研究した.そして,これらの地すべりでは,すべりを起こす前に小規模のDSGSDが形成されることを明らかにした.これらのDSGSDは地すべりの前兆現象であり,地すべり防災にとって重要な役割を果たすものと思われる.
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Jour. Japan Soc. Eng. Geol.
巻: 63 ページ: 2-12
10.5110/jjseg.63.2