研究課題/領域番号 |
19K03995
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
香月 興太 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 講師 (20423270)
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研究分担者 |
瀬戸 浩二 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60252897)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 年縞 / 古環境 / 珪藻 / 堆積物 / 簸川平野 / 隠岐 / 洪水 |
研究実績の概要 |
本研究は海跡湖の年縞堆積物を用いて,日韓3か所における歴史台風の襲来頻度を比較し,台風経路の変化を解明することを目的とする.2020年度は,201年度に韓国での採泥調査が行えない場合に,過去に分析した韓国海跡湖試料との対比を行えるように,島根県斐川平野で採取された柱状堆積物試料の珪藻群集・珪質鞭毛藻群集解析を行ったほか,研究計画に基づいた隠岐・島後の海跡湖女池で柱状堆積物試料の採取を行った.簸川平野の柱状堆積物は,斐伊川河口域から採取されたもので,全長37 mの堆積物試料である.完新世中期~後期に当たるコア深度12.3 m~23mにかけて年縞と思われる縞状構造が堆積している.縞状堆積物中には火山灰やその再堆積層の他に,洪水層と思われる粗粒な高密度層が含まれている.縞状構造が確認される層準では,汽水性珪藻が優占し,当時の簸川平野東部は成層化が発達した汽水湖沼下であったことが伺えた.この環境下において,低塩分富栄養嗜好の珪藻種が度々突発的な増加を繰り返しており,このような増加は当時の豪雨の際に富栄養淡水が流入したことを反映していると考えられる.簸川平野使用の珪藻・珪質鞭毛藻群集解析はコア全体を通した解析に加え,一部層準で約5年間隔での高解像度解析を行っている途中である. 隠岐での試料採取は,年度前半にCOVID-19の流行により隠岐への渡航を中断していたため,年が明けてから海跡湖・女池での採泥調査をおこなった.押し込み式採泥器を用いて,長さ148 cmの湖底堆積物を採取した.堆積物試料は有機物軟泥からなり,コア下部に火山灰層とみられる灰色の層を含んでいる.現在,年代測定依頼と珪藻分析を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画である日向湖の湖底年縞堆積物を用いた古環境分析は,順調に終えることが出来たが,本来2年度の調査計画であった比較対象となる韓国東海岸の海跡湖調査が,海外渡航の制限により行えていない.一方で,本来3年度に予定していた2ヶ所目の国内調査地点である隠岐・女池の湖底堆積物調査は,COVID-19に関して隠岐への渡航を見合わせていたため,粘土の後半になったものの採泥調査を行うことができ,試料を確保できた.また,韓国への渡航が今後もできない場合に備えて,過去に韓国で採取した海跡湖の環境変動と対比をとるために,代替試料として解析を行った島根県簸川平野の掘削試料に関しても,完新世を通じた珪藻群集変動の概要が明らかになり,韓国の年縞層堆積年代度同年代での高解像度分析に関しても着手している.以上のことから,当初の予定とは一部異なるもののおおむね研究目的に向けた分析は行えている.研究成果の報告は,日向湖の環境変遷と年縞堆積物に関する報告を,日本堆積学会および汽水域研究会で行ったほか,簸川平野試料の珪藻群集変動に関して汽水域研究会で発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
隠岐で採取した柱状堆積物試料の珪藻分析を行うほか,簸川平野で採取された柱状堆積物試料に関する珪藻群集解析の高解像度化を引き続き行う.簸川平野の試料の年縞層はItrax社のXRFコアスキャナーを用いて,高解像度の元素分析を行う予定である.元素分析は高知大学海洋コア総合研究センターの機器を用いて行う予定で,既に機器の使用に関して全国共同利用の公募で採択されている.珪藻群集と元素の解析結果は,韓国東海岸の海跡湖・香湖の年縞堆積物の珪藻・元素変動と対比する.ただし,COVID-19の流行が沈静化し,海外調査が可能となった場合は,韓国に渡航し,韓国東海岸での採泥調査に関して打ち合わせを行い,日程に問題なければ採泥調査を行う.その場合,新たに採取する試料に対して,軟X線写真による構造解析と洪水層同定や珪藻群集解析を行う. 2019年度に分析を行った福井県日向湖の湖底堆積物に関しては,植物プランクトン遺骸や化学組成の変動と人為的地形改変や洪水災害の関連に関して,国際誌への投稿を年度前半に行う.また,簸川平野から得られた堆積物試料の珪藻群集変動に関して,完新世全般における簸川平野の環境変動に関して論文投稿を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により,当初予定していた国際学会AGUおよび国内学会:地球科学連合大会への参加を見合わせた為,学会参加旅費の分の経費を使用できなかった.また,韓国への調査が行えない可能性が高かったため,本来3年目に予定して隠岐調査を本年度行った為,旅費の差額が発生した.使用計画は,堆積物試料の追加分析として,全国共同利用を利用した他大学の研究機器による分析を行うための旅費代とする計画である.詳細には高知大学海洋コア総合研究センターが所有するXRFコアスキャナーの利用を計画しており,高知大学に1週間滞在し,簸川平野試料の高解像度元素分析を行う.また,2年度目に行う予定であった韓国での採泥調査旅費にも充てることを計画している.
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