研究課題/領域番号 |
19K04000
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 由希 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (00374918)
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研究分担者 |
安田 敦 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70222354)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 榛名火山 / 新期活動 / マグマ供給系 / 噴火準備・誘発過程 |
研究実績の概要 |
このプロジェクトは榛名火山の新期活動(4万5千年前以降)が研究の対象である。今年度は、榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山(以上1万年前まで)と二ツ岳(6世紀後半~7世紀初頭)における非爆発的噴火(溶岩ドームを生成する活動)について、噴火を引き起こした高温マグマ及び低温マグマの、バルク組成や貯蔵条件を検討した。噴出した溶岩は、2端成分マグマの混合産物、もしくは、加熱を受けた低温端成分マグマに相当するものであり、全岩組成の多様性がある。低温端成分マグマのバルク組成には時代変化があることが、低温端成分相当の(すなわち高温マグマの混合のなかった)噴出物の全岩組成から明らかになった。1万年前まではSiO2量が63 wt.%以上であるのに対し、二ツ岳ではSiO2量が60.5~61.5 wt.%である。このことは低温端成分由来の斑晶の組み合わせが、1万年前まででは斜長石+斜方輝石+角閃石+石英+Fe-Ti酸化物であるのに対し、二ツ岳では石英がほぼ観察されなくなることとも調和的である。一方、低温マグマに由来する斜長石・斜方輝石・角閃石のコア組成、ならびに、高温マグマに由来するカンラン石のコア組成は、噴火年代によらず同じ組成範囲にあることも判明した。Putirka (2016)の方法を角閃石コアに適用することで、低温マグマの温度は850℃未満で、共存メルトの SiO2量が68~72 wt.%であることが分かった。これらにより珪長質端成分の源物質は時代によらず共通した性質であったが、その後噴火直前に至るまでの温度履歴などの条件差が、前述のバルク組成や鉱物組み合わせの差を作り出したものと推測される(以上、鈴木・他としてJpGU2020で発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本プロジェクトは、榛名火山の新期活動を引き起こした高温・低温マグマの地下での貯蔵状況の解明や、噴火に先立つ2端成分マグマの相互作用のタイミングの解明を目指している。マグマの相互作用から噴火までの時間は、相互作用発生時に低温マグマ中の結晶に発達したオーバーグロースと結晶内部との間において噴火までに進んだ元素拡散の記録に基づき定量化する。この種のデータの蓄積は、榛名火山のような近代的な火山観測例のない火山であれば「本格的なマグマ噴火に先立ち火山周辺で起きる様々な前兆の発生時期を物質科学的に整理し、火山学の他分野に予め提示しておく」という災害軽減に寄与する側面も持っている。 特に榛名火山の新期活動の場合、低温マグマは結晶に富むマッシュであり、そこへの高温マグマの注入は、マッシュの再流動化という形で噴火を誘発している。その上、溶岩ドームのみを形成した噴火活動は、爆発的噴火を伴う噴火活動に比べ、1桁程度噴出量が小さい。これらの事実に基づき「多量のマグマを噴出した規模の大きい噴火ほど、長時間をかけて、高温マグマの注入とマッシュ再流動化が進んだのか」という比較的大きな問題の検証も試みようとしている。 令和元年度は、上記テーマに沿って、まずは非爆発的噴火に絞り、マグマ供給系の時間発展や、端成分マグマの物理化学的条件の解明を行った。そこには二ツ岳の6世紀後半~7世紀初頭の活動のように、非爆発的噴火のほか爆発的噴火も発生したものも含まれる。そこで実施した斑晶組成の分析やマグマ温度の解明は、元素拡散記録からの時間スケール見積もりの基礎となるものであるが、元素拡散記録の解読には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
高温・低温マグマの相互作用から噴火までの時間の解析に早く進めるよう、次年度は以下の方策のもと進める。 1)代表サンプル・代表斑晶選別の迅速化 代表サンプルを選ぶにあたり、普通の岩石学的研究でよく行う検討方法(斑晶のコア・リムのポイント分析を多数斑晶について行う)を実施してしまい、研究時間の使い方が非効率となった。今後斑晶の組成分析を開始する爆発的噴火の産物については、既に取得済みの全岩組成データを元に、元素拡散記録の解読を行うサンプルを決定してしまう。令和元年度に行った溶岩試料の研究では、斑晶リムに記録されている高温マグマとの相互作用の程度と、サンプルの全岩組成との間に良い相関があることが分かっており、それを生かす形になる。 同様に、元素拡散記録を解読する(=線分析を実施する)斑晶も、コア・リムのポイント分析結果によって選別するのではなく、斑晶組成像の観察に基づき効率的に選別することにする。 2)爆発的噴火の軽石試料を優先して検討 斑晶に残された元素拡散記録から拡散時間を求めるには、拡散が起きた温度(=マグマ混合後あるいは加熱後の温度)を仮定することが不可欠である。令和元年度の研究では、溶岩試料でこれら温度を決定することの難しさを確認した。具体的には、Fe-Ti酸化物斑晶が離溶しており、また角閃石斑晶のリムは脱水分解している。微斑晶としてのみ存在する単斜輝石は、マグマ混合後や加熱後に核生成したと見られ、これらが斜方輝石リムと平衡であり温度を与える可能性もあるが、可否を早めに判断する。軽石試料では、Fe-Ti酸化物や角閃石斑晶の問題を回避できるものが多い。
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