研究実績の概要 |
本課題では、榛名火山の新期活動を対象にしてきた。新期の噴火の全てにマッシュ状低温マグマが関与している。この低温マグマは粘性が高いため、噴火誘発において高温マグマとの相互作用が重要である。低温マグマは時代と共に変化しており、45-10kaの4噴火に比べ、二ツ岳伊香保噴火(6世紀後半-7世紀初頭)でSiO2に乏しい(Suzuki et al., 2022)。 マグマ供給系や噴火誘発過程のモデルの向上を図るため、今年度は二ツ岳渋川噴火(5世紀後半-6世紀初頭)に焦点を当てた。渋川噴火の火砕流堆積物に含まれる軽石は全岩組成が非常に均質である(SiO2 60.6-61.6 wt.%; N=31)。軽石に観察される斑晶鉱物(角閃石+斜方輝石+斜長石+石英+Fe-Ti酸化物)の全ては低温マグマ由来である。伊香保噴火の岩石学的データも考慮することで、渋川噴火の噴出物は低温マグマが高温マグマにより加熱され生成したと結論づけた。また、渋川噴火と伊香保噴火の低温マグマは、バルク組成、含有鉱物の種類・組成・量の全てにおいて互いに類似していることも明らかにした。しかしながら伊香保噴火では、加熱マグマだけではなく混合マグマも噴出している。このことから伊香保噴火では低温マグマ溜まりへの高温マグマの供給量が相対的に多く、そのことが渋川噴火よりも規模の大きい噴火の原因になったものと推定した。MELTS計算に基づき、低温マグマの鉱物の組み合わせと量(50 vol.%)は、2-2.5kbar、800℃で再現されることも明らかにした。この圧力は二ツ岳伊香保噴火の噴出物から見積もられた高温マグマの結晶化の圧力(>4kbar)よりも小さい。以上より、榛名火山では、深部からの高温マグマの供給の開始と供給量をモニタリングすることが、噴火規模を含む噴火の予測において重要といえる。
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