本研究では、黒曜石溶岩の流動と定置過程の理解を進めようとしている。2021年度は、このプロジェクトにより進めてきた2つの研究成果を学術論文として公表することができた。ひとつは、阿蘇火山における高野尾羽根溶岩に関するもので、帯磁率異方性から流動時の応力を解明したものである。もう一つは姫島の城山溶岩において、火道での黒曜石形成から、溶岩流として流動し定置するまでの過程を示したものである。溶岩の噴出直前から溶岩定置までを包括的に示した例は貴重で、今後の黒曜石溶岩のダイナミクスを考える上で一つの基準になることは間違いない。 また、伊豆半島、皮子平溶岩において、ogive (溶岩じわ)の古地磁気研究からその形成、流動過程を検討した。ogiveの両翼において残留磁化を分析したところ、キュリー温度以下で複数回転動していることが明らかにされた。これはAndrews et al. (2021)の引張割れ目がpressure ridgeに見えている、という形成過程では説明できない結果である。そのため皮子平溶岩のogiveはpressure ridgeだと考えられるが、データが不十分なので、今後も検討を続ける予定である。 さらに皮子平溶岩について含水量の検討を行った。皮子平溶岩は黒曜石部と、発泡した軽石質部から構成されるが、両方の岩相においてFTIRにより含水量分析を行った。その結果、黒曜石部が0.2-0.3wt.%、軽石質部が0.1-0.2wt.%であった。これは、黒曜石が水を放出して軽石になったのか、軽石が水を吸収して黒曜石になったのかは判断ができないため、これについても引き続き検討する。
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