アジョイント方程式に基づく地震および津波波動場の推定について,定式化を完成させるとともにより現実的な構造を加味した問題について数値実験を実施し,その有効性について検証した. まず,地震についての弾性体の運動方程式と構成関係式,津波については線形長波の質量保存則と運動方程式の数学的類似性に着目し,まったく同一の方法によるアジョイント方程式の導出を昨年度に引き続いて行った. さらに津波について実地形と実際の観測地点を模擬した数値シミュレーションを仮想データとした模擬実験により,(1) 震源(波源)の推定,(2) 波動伝播途中状態の推定,(3) 逐次的な波動場推定,の3種類のデータ同化実験を行った.まず (1) からは,数百万点もある数値グリッドすべてにおける波動場を推定するという超劣決定問題にもかかわらず,アジョイント方程式の繰り返し計算によって初期波動場をほぼ完全に再現できるということが明らかとなった.一方,(2) の波動場の途中状態推定については,振幅0の初期状態からの繰り返し計算では,まったく異なる波動場状態に収束してしまい,しかも観測記録はほとんど完全に再現してしまう,ということがわかった.これはいわゆる局所最小問題であり,推定される波動場が推定初期値から比べて極端に複雑であると本手法がうまく働かない,ということを示唆している.そこで,(3) のイタレーションを繰り返すごとに推定対象も時間発展させる逐次法を試したところ,数百時間ステップという津波予測としては十分な短時間で仮定した波動場に収束し,従来の最適内挿法よりも高精度で波動場状態が再現された.これは本手法の有効性を示唆する結果である.
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