ジルコンのような年代測定が可能な珪酸塩鉱物が存在しない岩石(断層岩やスカルン、炭酸塩鉱物脈)に対し、近年、方解石へのウランー鉛(U-Pb)年代測定による年代決定が試みられるようになった。しかしながら、方解石のU-Pb年代測定は、ジルコンと比べ、方解石U-Pb年代測定に利用できる標準試料は限られている現状があり、また高い初生鉛含有量による測定上の制約や二次的な影響による同位体組成の改変のために形成年代を得られないといった困難さがある。ジルコンはその組織観察や元素濃度から形成環境の推定が可能であるが、方解石にはそのような指標がない。そこで、本研究では、NIST標準物質、ジルコン標準物質、及びこれまで提案されている方解石U-Pb年代測定用の標準物質(WC-1、ASH-15)を用いて方解石U-Pb年代測定法を確立し、産地も推定形成年代も異なる複数の方解石について鉱物学的記載と微量元素分析、U-Pb年代測定を実施し、詳細な検討を行った。その結果、パキスタン・バロチスタン地方のトラバーチンのうち1試料が方解石U-Pb年代測定法の標準物質として最適であることを見出した。本研究で作成した方解石標準物質は、二次標準物質として利用でき、U-Pb年代測定法を実施する際のマトリックス補正に利用でき、PKC-1と名付け、国内外の大学・研究機関に配布を実施した。また、本研究では、方解石のマイクロ蛍光エックス線分析、微量元素分析、ストロンチウム同位体分析を行い、方解石の形成環境を推定できる指標とU-Pb年代測定可能な方解石の組織・化学的指標を検討し、方解石のカリウムの分布から閉鎖系か開放系かを判断できることや方解石中の鉄濃度がウラン濃度のトレーサーになることを明らかにした。本研究の進捗状況は、国内外の学会で発表を行ない、国際誌への投稿準備を行っている。
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