研究課題
本年度は各種衛星画像による西之島4期(2019-2020年)活動の複合的解析を行った.2019年12月,西之島で新たな活動が始まった.ここでは,高い時間分解能をもつひまわり8号の赤外画像による熱異常観測と,全天候観測が可能で高い空間分解能をもつALOS-2 のSAR画像による地形観測を相補的に用いることにより噴火推移の解析を進めた.4期の活動は,中心的な噴火様式の違いに基づいて,3つのステージに分けられる.ステージ1は噴出的活動が主体でほとんどの溶岩が火砕丘北東麓にある北東火口から噴出し,北側半分の領域を広く覆った.噴出率は0.5-0.7×10^6 m^3/day程度であった.ステージ2では,高い噴出率に伴って活発な噴泉活動が発生し,火砕丘が急速に成長した.ステージ2では活発な噴泉活動に伴ってクラスト溶岩と思われる赤色の溶岩,火砕丘崩壊に伴うスコリアラフトを載せた溶岩が生じた.噴出率は一時的には4 期平均値の5倍(2.4×10^6 m^3/day)以上に達していたと推定され,この時,同時に全噴出物に占める火砕岩の割合が5~8割と非常に高くなっていた.ステージ3では,マグマ水蒸気爆発に伴う火山灰の放出のみで,火砕丘の成長はほとんど見られなかった.4期活動の総噴出量は132×10^6 m^3,期間を通じた平均噴出率は0.58 m^3/dayであった.4期の活動を特徴づける高い平均噴出率,ドラスティックな活動変化,集中的噴泉活動に伴う急激な噴出率の高まりは,ステージ2においてガス成分に富むマグマが火道浅部に達するようになったため,活発な噴泉活動が起き同時に蓄えられていたマグマが連鎖的に発泡して噴泉として短期間で大量に放出されたとするモデルで説明することができる.上記の西之島に加え,2018年新燃岳噴火に関する予察的検討を行った.
3: やや遅れている
今年度もコロナ禍が引き続き影響し,国内・国外の旅行が制限された.このために,研究室内で行える画像解析作業を中心に進めたが,予定していた現地での地形・噴出物調査を行うことができず,研究がやや遅れることとなった.
今後は,衛星によるブルカノ噴火観測の最初の試みとして,ひまわり8/9号の高頻度画像によりブルカノ噴火がどのように捉えられるかを,2018年新燃岳活動を用いて検討を行う.ブルカノ噴火は短時間スケールの爆発現象であり,これまで衛星赤外画像による観測はできなかったが,ひまわり8/9号により10分間隔という高頻度観測が実現され,観測視野に入って来た.衛星赤外画像を噴火観測に用いることにより,ブルカノ噴火そのものに加え,その発生場をもたらす噴火推移全体を一元的に観測することが可能となる.これにより,ブルカノ噴火の前駆過程や,爆発に付随して発生する現象等に関する情報が得られる可能性がある.予察的検討の結果,2018年新燃岳活動におけるブルカノ噴火は,数時間スケールの急騰-漸減の非対称パターンから構成されており,このパターンのピーク部分がブルカノ噴火の爆発発生(爆発期)に,漸減部が放出物表面の冷却過程(冷却期)に対応していることがわかった.さらに,爆発前の前駆期を含めて見ると,一回のブルカノ噴火に対応する熱異常の時間変化は,バックラウンド-急騰-漸減の変化を示すことがわかった.前駆期がバックグラウンドのレベルにあることは,ブルカノ噴火に先行して,溶岩噴出やガス放出の増加が起きていないこと,冷却期が一様な冷却を示すことは,爆発に続いて溶岩の噴出が起きていないことを示唆する.このような熱異常変化パターンは,火口域を溶岩が覆う状態で,溶岩の噴出が止まることで発生するタイプのブルカノ噴火に特有のものである可能性がある.このような点に関して,詳しいデータ解析により確認すると供に,現地での調査,ベズィミアニ等の他のタイプの事例との比較分析を行う.
今年度はコロナ禍のために現地調査ができなかった.次年度は国内外の旅行について制限が解除されることになっている.このため,衛星画像解析に必要となる現地調査を行い,これに助成金を使用する.また,衛星によるリアルタイム観測の結果をWebで公開しており,このためのサーバーシステムの部品購入,保守作業にも助成金を使用する.
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Earth, Planets and Space
巻: 74 ページ: 1-34
10.1186/s40623-022-01578-6
http://vrsserv.eri.u-tokyo.ac.jp/realvolc/index.html