研究課題/領域番号 |
19K04012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高森 昭光 東京大学, 地震研究所, 助教 (00372425)
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研究分担者 |
今西 祐一 東京大学, 地震研究所, 准教授 (30260516)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁気浮上 / 反磁性体 / 傾斜計 / 重力計 / 有限要素モデル |
研究実績の概要 |
本研究では反磁性体を用いた磁気浮上を応用し、新しい地球観測用機器を開発することを目標とする。最大の特色は、機械式振り子による制約を解消するために、磁気浮上振り子を用いる事である。また、低コストで実用的な装置とするために、反磁性体と永久磁石の組み合わせによる磁気浮上を採用する。このような方式による傾斜計を、モデルと実験の両面から研究する。さらに将来的な展望として重力計への応用を視野に入れ、電磁力学モデルを構築して浮上体の特性を調査する。 傾斜計試作に関しては、磁気浮上部分の設計と試作を行った。前年度までに開発した半解析モデルを元に永久磁石と反磁性体の形状や配置などの設計を行うとともに3Dプリンタを用いて部材を作成した。また、浮上体の位置を読み取る簡易式変位センサーを製作して分解能の評価を行った。並行して、磁気浮上部分の傾きを制御するための傾斜台の設計を開始した。また、上記の変位センサーに代わる、高分解能センサーを検討した。 磁石は温度変化の影響を受けるので、浮上振り子の特性変化を評価するためにモデル計算を行い、室温±10℃の温度変化の範囲内で永久磁石の特性変化による振り子特性の変化は無視できるという結果を得た。反磁性体については温度特性が不明であるため、試作傾斜計でその影響を実験的に評価する予定である。 重力計の研究としては、超伝導重力計における磁気浮上体の非線形効果の影響を見積もるための有限要素モデルの改良を行った。特に浮上球のモデリング方法を見直すことによりモデルの精度を向上させることに成功した。その結果、浮上球の水平方向のバネ定数など、実際の力学的挙動が高精度で再現可能となり、鉛直方向の非線形項の係数も見積もった。このようなモデルの精度向上は、将来目標としている反磁性体を用いた重力計開発にも有用である。また、これまで超伝導重力計で観測された重力値の解釈にも利用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では(1)反磁性体による磁気浮上を用いて無定位またはそれに準ずる長周期の振り子を作成して、その振り子を参照マスとした傾斜計を開発することと、(2)より長期的な目標としての反磁性体浮上方式の重力計の開発に必要な電磁力学モデルを構築することを目的としている。 (1)については、半解析的な電磁力学モデルを作成して実測と良い精度で一致することを確認し、それを元に磁気浮上部分の設計、試作を行った。また、モデルを用いて永久磁石による磁場の温度依存性を予想して、傾斜計の温度安定性を見積もった(室温程度では無視できることがわかった)。試作傾斜計では無定位に近い振り子の位置を安定化するためにフィードバック制御を行う。そのために必要な光位置センサーやピエゾアクチュエータ、傾斜台の設計開発を開始した。 (2)については、前年度より超伝導重力計の浮上球の力学的特性を定量的に評価するための有限要素モデルの開発を継続した。浮上球のモデル化方式を改良することによりモデルの精度を大幅に向上させることに成功した。その結果、実測された浮上球の力学応答を再現することに成功し、非線形効果も十分な精度で見積もることが可能になった。非線形効果は反磁性体を利用した磁気浮上式重力計でも生じうるが、半解析モデルに取り込むことは困難であるため、有限要素モデルにより計算可能になったことは重要な成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)試作傾斜計の設計、製作を完了して性能評価を行う。まず、製作済みの浮上系と簡易式光変位センサー、現在開発中の傾斜制御台(ピエゾアクチュエータを組み込んだ傾斜台)、フィードバック系(PICマイコンを使用予定)を組み合わせて傾斜計を試作して制御応答の測定や傾斜の測定分解能を評価する。その結果を検討しながら、光変位センサーの高感度化などを行い、傾斜の試験観測を行う計画である。 (2)実在する超伝導重力計(超伝導体,完全反磁性体)の磁気浮上の力学を、有限要素法によりかなりの高精度で再現できることがわかったので、今後はそうした手法を一般の反磁性体に適用し、本研究の研究目的である反磁性体の磁気浮上のメカニズムについて詳細に分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス対策のため在宅勤務を余儀なくされ、物品の購入を伴わない設計やシミュレーションを中心に実施し、実験室で行う作業(磁気浮上系の試作、試験)が遅滞したため、それを受けて行う(物品購入を伴う)作業の実施時期も後方にずらすことになった。 設計などの準備は進んでいるので、次年度に集中的に物品調達を行い、研究を推進する計画である。
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