研究実績の概要 |
本研究では沈み込み帯深部に存在する流体・メルトに注目し、プレート収斂域におけるマグマ生成の化学的多様性や解明することを目的として、世界各地の超高圧変成岩に含まれる多相固体包有物の電子顕微鏡観察・X線CT観察を行なうとともに、最終年度は多相包有物の形成過程を明らかにするために、高温高圧下での均質化実験を行ない、メルト組成の復元を試みた。ロンポッドリビデム岩体のザクロ石輝岩に含まれる多相包有物の均質化実験では、ピストンシリンダー装置をもちいて、試料をザクロ石かんらん岩の温度圧力条件(3 GPa, 1000℃)で24時間保持した。含水条件ではザクロ石が分解し均質化実験に失敗したが、無水条件では実験後、多相包有物がほぼ均質化され、花崗岩質メルトの組成の復元に成功した。さらに、プレショビチェかんらん岩のクロマイト中に見られる炭酸塩マグマの復元を目的として,クロマイトとかんらん石をして混合して白金カプセルに封入し、2.5 GPa, 1300℃で約30分保持する実験も行なった。 本研究ではまた沈み込み帯における含水マントル岩(蛇紋岩)の脱水反応によるH2O 流体生成と地震発生過程の関係にも注目し、高温高圧変形実験を行なった。出発物質として長崎変成帯に産するアンチゴライト蛇紋岩を用い、定歪速度試験を封圧 1.7 GPa, 温度 700℃までの条件で行なった結果、脱水反応条件下では降伏強度の著しい低下が観測された。実験回収試料の電子顕微鏡観察やラマン分光顕微鏡観察では脱水反応生成物が断層沿いに濃集していることが確認され、脱水反応と断層形成が互いに促進しあう正のフィードバック効果があることが示唆された。 上記に並行して、K-Ar年代測定法やラマン炭質物温度計をもちいて、深部流体の発生・移動場となる高圧変成帯の構造やテクトニクスを明らかにする研究を進めた。
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