研究課題/領域番号 |
19K04020
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
福間 浩司 同志社大学, 理工学部, 准教授 (80315291)
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研究分担者 |
伊藤 久敏 一般財団法人電力中央研究所, 地球工学研究所, 上席研究員 (50371406)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 古地磁気強度 / テリエ法 / 地磁気永年変化 / フルネーズ火山 |
研究実績の概要 |
この研究は,火山岩を用いた古地球磁場強度を機器測定による地球磁場強度と直接接続し,400年前まで遡って高精度で地球磁場強度を復元しようという試みである.そのために試料採取と実験室での測定の両面から,古地球磁場強度の精度を機器測定に匹敵するレベルまで引き上げる努力を行ってきた.溶岩のクリンカを採取すれば,古地球磁場強度測定に適した細粒の磁性鉱物を含む試料を得られることをこれまでに確認している.私たちが実測に使い始めた加熱・冷却部と測定部が一体となった自動スピナー磁力計を用いれば,24時間効率的に測定を進め,試料の方位の誤差を最小化し,温度制御も極めて厳密にできる.試料採取と装置の両面の進歩により,既存のデータに比べてはるかに高い精度の古地球磁場強度を得ることができ,太陽活動や気候変動を明らかにすることができる. 古地球磁場強度を得るには,限られた地域で採取した同種の試料を使い,信頼性の高い同一の測定方法を適用するアプローチを取った.過去400年間について方向データに基づく球面調和モデルが確立されており,地球上の任意の点の地球磁場ベクトルを得るには1点での強度データがあればよい.その1点として,現在も活発に噴火を続けている火山をもつ南インド洋のレユニオン島を選び,今年度に予備的な試料採取に赴いた.年代が明らかである溶岩をターゲットとして上部もしくは下部クリンカから12地点で定方位試料を採取することができた.採取した全試料について測定のために必要な円筒形試料の整形を行い,磁性鉱物の種類と粒径を得るための測定を終えることができた.さらに,自動スピナー磁力計を用いて19世紀半ば以降の溶岩についてテリエ法を行い,期待できる地球磁場強度を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レユニオン島のフルネーズ火山へ過去400年間に噴出した火山岩を採取するために試料採取に赴いた.第一の目的は機器観測により地球磁場強度が得られている19世紀半ば以降に噴出した火山岩の様々な岩相を採取することである.実験室に持ち帰って得た古地球磁場強度と機器観測による値が一致するかどうかを確かめた上で,本格的な調査で19世紀半ば以前の火山岩から正確な古地球磁場強度が得られる採取すべき岩相を絞り込むことができた.第二の目的は予察的な年代測定のための試料を得ることである.文献と層序によって得られた年代をクロスチェックするため,AMS放射性炭素年代を求めるのに適した溶岩に挟在する炭化物を収集した. 火山岩から信頼できる地球磁場強度を得るには,火山岩に含まれている磁性鉱物の種類と粒径を個々の試料について調べた上で,地球磁場強度実験に適した試料を選びだすことが必要である.磁性鉱物の種類を同定するには,従来から用いている熱磁気分析に加えて,磁化率の磁場強度依存性測定が有効であることがわかった.また,磁性鉱物の粒径は磁気ヒステリシスの測定に加えて,熱消磁実験を行うことでより信頼できるデータを得ることができた.その結果,これまで信頼できる古地球磁場強度を得ることができることが知られていた溶岩の下部クリンカに加えて,上部クリンカでもチタン含有量の高いチタノマグネタイトが極めて安定な残留磁化を担っており,古地球磁場強度実験に有用な試料であることがわかった.私たちが開発した熱消磁炉付自動スピナー磁力計を用いて,下部および上部クリンカの試料を24時間自動で測定を進めて,テリエ法により信頼できる古地球磁場強度を得ることができることがわかった.一方.AMS放射性炭素年代測定も行ったが残念ながら信頼できる年代値を得ることができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
19世紀半ば以降の試料についてもこれまでのテスト測定と同様に自動スピナー磁力計を用いて試料の古地球磁場強度を効率的にかつ精密な測定を進めていく.測定中は試料の向きを換える必要がなく,温度設定もあらかじめプログラムされているので毎回同じ温度履歴を保つことができる.試料は各地点少なくとも6個,20年毎に1サイトで採取するとして400年で20サイト,従ってレユニオン島で120個以上の試料の測定を行う必要がある.自動スピナー磁力計は同時に2台で測定できる状態にあり,1台で1個について1から1.5日くらいで測定できるので,装置にトラブルが生じても期間内に測定を終えることができる十分な余裕がある. レユニオン島での過去400年間の地球磁場強度の変化が得られれば,球面調和モデルにより地磁気双極子強度の変化を得ることができる.私が最近過去400年間の古地球磁場強度を得た伊豆大島と三宅島からも,羅針盤データが得られた航跡から離れているためやや精度は落ちるものの,地磁気双極子強度の変化が得られている.レユニオン島と日本から独立に得られた地磁気双極子強度は原理的には一致するはずであり,その統計的な扱いも含めて過去400年間の地磁気双極子強度の変化を得ることが研究期間内の目的である.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通りに試料採取と測定を行ったが,予定より旅費が少なくてすんだため次年度使用額が生じた.次年度使用額は今年度の交付決定額の5%未満と少額であるが,次年度の補足の試料採取のための旅費と今年度に採取した試料についての実験を続けて行うための消耗品の購入のために,次年度の助成金と合わせて使用する予定である.
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