研究課題
機械学習及び統計数理的手法に基づいてマグマの科学組成バリエーションを解析する方法を確立し、天然火山岩化学組成データおよび高圧実験に基づくマグマ化学組成データに適用して、マグマ進化プロセスやその時空推移を捉えることが本研究の目的である。その目的のために具体的テーマとして設定した課題1から3に基づき、2021年度の研究を遂行した。「課題1:統計数理に基づいた天然マグマ化学組成バリエーションの特徴抽出手法の確立」に関しては、非負値行列因子分解と呼ばれる解析手法を用いることで、火山岩の岩石化学組成データセットから、マグマ生成プロセスを代表する少数のマグマ端成分を自動的に決定できることを新たに示した。また、化学組成データ及び岩石学的観察に基づいて草津白根山のマグマ供給系を議論する研究を2020年度から継続して進めた。「課題2:統計数理に基づいた実験マグマ化学組成バリエーション解析手法の確立」に関しては、マグマ生成場の条件を推定する数理モデルの開発を進めた。岩石の高温高圧溶融実験で得られたマグマの化学組成データに対して機械学習を用いた解析を行うことで、マグマ生成時の岩石の溶融度を反映する少数の重要な元素を決定すると共に、マグマ化学組成からマグマ生成時の溶融度を推定する数式を導いた。「課題3:マグマ生成プロセスの時空間推移解析」では、2019年度および2020年度に課題1として行ったグローバルな火山岩化学組成のデータベースを用いた解析の結果に基づいて、グローバルなマグマ生成プロセスやマグマ生成に駆動される物質循環過程を理解することを目的とした地球化学的研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
【課題1】に関しては、非負値行列因子分解と呼ばれる解析を火山岩主要元素化学組成データに適用する手法を確立すると共に、同解析手法がマグマ端成分を決定するために有用であることを示した。この解析によって、マグマ主要元素組成のバリエーションを定量的に解析することが可能となった。さらに、草津白根山の岩石に関して、2021年度までに得られた新たな微細構造の観察および分析結果を元に、マグマ供給系の考察をさらに進めた。【課題2】に関しては、高温高圧溶融実験結果データセットの構築を進め、データセットに基づいて解析を進めた。組み合わせ全探索と交差検証法によるモデル選択を用いることで、マグマ化学組成のみから生成時の溶融度が決定可能であることを示した。これらの解析を元に、マグマ化学組成から溶融条件を予測するモデルを構築することが出来た。【課題3】に関しては、2019年度および2020年度まで【課題1】として行ったデータ解析結果を元に、地球化学的議論を進め、論文として投稿することができた。このほかに、マグマ組成への応用を見据えて、様々な地球科学データを対象とした機械学習データ解析手法開発研究に参画した。
【課題1】については、これまでの成果を踏まえて、非負値分解を用いた火山岩主要元素データの解析をさらに進める。【課題2】については、これまでの結果を基に、溶融度以外の様々な溶融場条件も推定するモデル構築へと展開し、マグマ化学組成から総合的な溶融場の情報を抽出するモデルを構築する。【課題3】に関しては、結果の考察を進め、全地球規模のマグマプロセスを議論するとともに、新たな天然データへの応用を進める。
出張および学会での成果発表に関して、緊急事態宣言への対応及び、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から見送った。このため、出張旅費に関して未使用が生じた。次年度の成果発表やデータ解析用消耗品購入のために使用する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 126 ページ: -
10.1029/2021JB023062
10.1029/2021JB022307