研究課題/領域番号 |
19K04029
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小園 誠史 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40506747)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 火道流 / 玄武岩質マグマ / 噴火の多様性 / 数値モデル / 伊豆大島 |
研究実績の概要 |
本研究では、噴火の推移予測や火山災害の軽減が重要視される富士山や伊豆大島を代表例として、島弧における低粘性の玄武岩質マグマにおいても広範な噴火タイプが出現することに着目し、その噴火タイプの再現および成因解明を可能にする火道流数値モデルを構築することを目的としている。本年度は、地質学的・岩石学的・地球物理学的観測データが豊富な1986年伊豆大島サブプリニー式噴火について、詳細な火道流数値モデル解析を実施した。本噴火では、噴火のダイナミクスを支配する重要なパラメータであるマグマ噴出率が高精度で推定されていることに基づき、サブプリニー式噴火に相当する火道流の定常解が安定に存在する条件の系統的な抽出を試みた。具体的には、昨年度までに明らかになった火道形状が火道流に与える影響の重要性を踏まえ、ダイク形状、円筒形状、深部から浅部にかけてダイク長さが変化する形状など、広範な火道形状を考慮した解析に基づき、サブプリニー式噴火が発生し得る火道形状条件を明らかにした。その形状条件は、噴火時の測地学的観測データに基づく変動源のサイズとも整合的であり、また、深部から浅部にかけてダイク長さが変化する形状の場合、火道内の増圧が顕著になり、地殻変動に大きな影響を与え得ることがわかった。以上により、地球物理学的観測データに基づく噴火推移予測において、複雑な火道形状を考慮した火道流の影響を評価することの重要性が明らかになった。さらに、伊豆大島においても存在が示唆されている複数のマグマ溜まりからなるマグマ供給系について、噴火中のマグマ溜まりの減圧過程に関する解析解を導出することに成功し、火道流モデルとの統合によるマグマ供給系のより定量的な理解が可能となった。また、玄武岩質マグマ噴火にも応用可能な、噴火準備過程を想定した火道浅部での固体プラグ形成を考慮した火道流の時間発展モデルの開発にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目までに達成した玄武岩質マグマ噴火を対象とした火道流数値モデルの精緻化により、本年度は実際の噴火時における観測データを考慮した解析が可能となり、特定の噴火事例を対象としてマグマ供給系に定量的な制約を与えることに成功している。これまでの珪長質マグマ噴火を対象とした火道流の解析では出現しなかった、マグマが低粘性であることによる玄武岩質マグマ特有の火道流の特徴が明らかになっており、本課題で設定した最終目標自体はほぼ達成している状況にある。一方で、次項で詳細を述べる通り、開発したモデルの解析を引き続き実施することで、目的をより精緻に達成する可能性があるため、補助事業期間延長を申請し、承認されている。
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今後の研究の推進方策 |
当初本課題の実施期間は今年度までであったが、補助事業期間の延長によって目的をより精緻に達成できる可能性があることから、期間延長を申請・承認され、2022年度まで研究を推進することになった。研究代表者は、2022年4月から所属機関を防災科学技術研究所に変更した。当研究所では、本課題の研究対象である伊豆大島および富士山の地球物理学的基盤観測網を長年にわたり整備・運用しており、その観測データに基づく火山活動研究を推進している。そこで、その観測研究で得られた知見と、本課題でこれまでに開発した火道流モデルの統合により、玄武岩質マグマ噴火のメカニズムをより詳細に明らかにする解析を積極的に推進する。今年度実施した伊豆大島サブプリニー式噴火の研究内容は既に論文を投稿済みであるが、来年度も引き続き追加の論文投稿を目指し、また、新型コロナウィルス感染拡大の影響により延期されている国際火山学会においても、感染状況を考慮しながら成果発表を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
「今後の研究の推進方策」にも記述した通り、補助事業期間の延長によって目的をより精緻に達成できる可能性があることから、2022年度までの期間延長を申請し、承認されたため、次年度使用額が生じている。今年度は火道流研究についての情報収集や成果発表のための国内外学会参加を計画していたが、COVID-19の影響で国内学会は引き続きオンライン開催となり、火山関係の国際学会(IAVCEI、COV)は2022年度以降に開催が延期された。そこで次年度は、これらの学会における参加および成果発表のために助成金を使用する。また、現在投稿中の論文印刷費用および追加の論文投稿のための諸費用に使用する。学会のオンライン開催の状況が続き、旅費としての使用が難しい場合は、火道流モデルのより効率的な数値解析を実施するための計算機環境整備に使用する予定である。
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