研究課題
本研究では、噴火の推移予測や火山災害の軽減が重要視される富士山や伊豆大島を代表例として、島弧における低粘性の玄武岩質マグマにおいても広範な噴火タイプが出現することに着目し、その噴火タイプの再現および成因解明を可能にする火道流数値モデルを構築することを目的としている。本年度は、1986年伊豆大島噴火における溶岩流出期について、マグマ噴出率の指数関数的減少という観測事実に着目し、マグマ溜まりと火道からなるマグマ供給系のダイナミクスを物理モデルに基づき調べた。物理モデルによると、指数関数的減少の時定数は火道におけるマグマ流動のしやすさを表す火道伝導度に依存する。そこで、本課題で昨年度までに構築した一次元定常火道流モデルに基づき、マグマ溜まり圧力と噴出率の関係を調べることで火道伝導度を計算した。特に、伊豆大島噴火では複雑な形状のマグマ供給系が示唆されていることを考慮し、火道伝導度の火道形状依存性を系統的に調べた。解析の結果、指数関数的減少の時定数を再現するには、火道水平断面のアスペクト比が小さい円筒に近い火道形状が必要であることが明らかになった。研究期間全体を通じて、本課題では低粘性の玄武岩質マグマを対象とした火道流数値モデルの開発に成功した。特に、珪長質マグマとの大きな違いが生じるマグマ粘性に関して、マグマの熱力学的平衡計算プログラム(MELTS)の計算結果を適用することによって、より現実的な減圧結晶化・組成変化の効果を火道流モデルに組み込むことが可能となった。このモデルに基づき、火道流の力学系を規定する定常火道流におけるマグマ溜まり圧力と噴出率の関係を示す曲線の特徴を広範なパラメータ領域において系統的に調べた。その結果、玄武岩質マグマにおけるサブプリニー式噴火と溶岩流出噴火に対応する火道流が存在できる条件が、それぞれ火道形状とガス分離過程に強く支配されていることを明らかにした。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
Journal of Disaster Research
巻: 17 ページ: 754~767
10.20965/jdr.2022.p0754
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 127 ページ: e2022JB025183
10.1029/2022jb025183