2014年にタイで発生した共役断層で発生した地震(Mw 6.2) にポテンシー密度テンソルインバージョンを適用した結果を、国際雑誌で発表した。この地震は、Phayao断層帯で発生しており、余震は共役な二つの面に沿って分布している。この二つの面は鋭角に交わっており、断層形状が複雑でかつ、衛星データで断層運動に伴う地殻変動を明瞭に捉えることができていないため、本震時にどのような破壊伝播が発生したのか明らかになっていなかった。 また、二つの面は鋭角に交わっていたため、先行研究ではー面のみが地震時にずれたとの先入観の基に解析と解釈が行われてきた。ポテンシー密度テンソルインバージョンは断層形状を想定することなく、複雑な地震を解析できるため、先入観を排した解析が可能である。その利点を最大限に活用するため、2014年タイ地震の遠地実体波P波を用いて解析を行った。 解析の結果、本地震は、破壊が鋭角に交わる共役断層のどちらとも地震時に発生しており、破壊は北東方向に伝播した後に、南西方向に逆伝播していることが明らかになった。震源メカニズムの節面の一つは余震領域から推定される断層面の走向に一致しており、得られたP軸の分布は二つのピークを持つ。それぞれのP軸のピークは、共役断層面の形状と調和的である。従来の応力テンソルインバージョンで得られた圧縮軸はP軸のピークの一つに一致する。共役断層面のうち一面だけで震源メカニズム解を推定できる規模の地震が発生していることに由来していることが明らかになり、地震の規模の偏りによって、この地域の応力場推定結果にバイアスが生じている可能性が明らかになった。 また、M6クラスの複雑な破壊過程を遠地実体波P波を用いたポテンシー密度テンソルインバージョンで解明できることが明らかになった点も特筆に値する。
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