研究課題/領域番号 |
19K04031
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 亮輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10455256)
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研究分担者 |
伊田 明弘 東京大学, 情報基盤センター, 特任准教授 (80742121)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シミュレーション / 動的破壊 / 地震サイクル / H-行列法 / 境界積分方程式法 / 境界要素法 / 北海道胆振東部地震 / Ridgecrest earthquake |
研究実績の概要 |
本研究では,大規模並列計算環境を用いた現実的な系を考慮した地震破壊シミュレーションのために,物理モデルの検証・高度化と数値計算機アルゴリズムの高度化及び新たな数値計算手法の開発を目的としている.今年度は,物理モデルの検証・高度化研究として,大きな被害を出した2018年北海道胆振東部地震および米国カリフォルニア州で発生した前震・本震系列を示す2019年リッジクレスト地震という二つの自然地震を対象とした.数値計算には,大型計算機(Oakforest-PACS)に実装したO(N2)アルゴリズムであるFDP-BIEMを用いてシミュレーションを実施し,観測データと比較することで現象の再現性とパラメタ依存性を検討した.その結果,北海道胆振東部地震については,観測データに基づいて断層の3次元幾何学的形状を適切に仮定することによって,地震時観測によって推定された断層の破壊過程や巨視的なモーメントテンソル解の特徴が良く再現されることが明らかになった.リッジクレスト地震については,シミュレーション結果を合成開口レーダ観測によって得られた地表変位分布と比較して,最大変位量の発生地域を含む大局的な変位分布の特徴を再現できていることが分かった.引き続き,前震と本震の時間遅れの再現を目指す.また,シミュレーション手法の高度化として,当初計画に取り入れていた動的破壊伝播過程に加えて地震サイクル過程のシミュレーションについても取り組み,従来のH-行列法より分散性能の高い格子H-行列法(Lattice H-matrices)の実装を行い数値計算効率の大幅な向上を確認した.数値計算手法の新たな開発については,これまでに2次元系で導入したFDP=H-行列法(O(N Log N))の大規模な3次元問題への拡張に向けた開発を進めた.今年度は,格子-H行列ライブラリを用いて動弾性積分核(グリーン関数)の低ランク近似を実行し,その精度評価を行ったところ十分な精度が保証され得ることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ,自然地震の物理モデル化と観測データと比較した定量的な妥当性評価について,カイコウラ地震,北海道胆振東部の地震,リッジクレスト地震という複数の研究事例を積み重ねることができている.従来計算コードの高度化,新たなアルゴリズムの開発については,短期的課題と中長期的課題を振り分けて,着実に進捗していると判断している.短期的課題として,FDP-BIEMコードの改良,準静的シミュレーションにおける格子H-行列の導入などを行った.中長期的課題として,3次元FDP=H-行列の開発を続けており,既存ライブラリを活用した定量的な誤差評価に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
自然地震の系統的なモデル化とコード開発を軸にして,引き続き,現状の計画を推進する.今年度より計画に加えた準静的シミュレーションについては,新しい手法である格子H-行列の有効性が確認されたので今後重点的に開発を行い,地震現象への適用を進めて物理過程の理解へとつなげることとする.地震現象としては,断層の非平面性が破壊様式に与える効果や余震の発生メカニズムを扱うこととする.
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次年度使用額が生じた理由 |
データ蓄積用ハードディスクの増強費用と学会発表のための国内旅費への支出を予定していたが,既存設備に余裕が生じたため購入を先送りした.後年度において,当該物品と旅費に充当する予定である.
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