本年度は、地震発生場の物理的理解を深めるため、複数の研究を進めた。まず、日本列島のひずみ速度場と応力場の関係について、全地球衛星航法システム(GNSS)データと地震のメカニズム解の解析を行った。GNSSの変位速度場からひずみ速度場を推定するためには、空間的スムージングを行う必要がある。これを適切に行うために近年いくつかの手法が提案されている。本研究では、ある手法のハイパーパラメータ推定法を考案した上で、国土地理院のGNSS観測網が約25年にわたって捉えてきた日本列島の変位速度場から、ひずみ速度場を詳細に推定した。その上で、ひずみ速度場の最大圧縮方向に着目し、地震のメカニズム解から推定した応力の最大圧縮方向と同じ空間グリッド上で直接比較した。結果として、先行研究で一部指摘されてきたひずみ速度と応力の差について再確認すると共に、両者の差が「どの場所で」「どの時期に」「どの程度」生じているかをマッピングすることに成功した。この内容は、現在論文投稿中である。また、南海トラフの地震活動のうち、沈み込むプレート内で発生しているものに焦点をあて、海溝と平行な方向における不均質を調べた。その結果、マグニチュード6.5を超える長期的なスロースリップイベントが発生している領域の周辺で地震活動度が高いこと、および、それらがフリーエア重力異常の低異常域によく対応することを見出した。プレート内地震活動・スロースリップイベント共に、表層荷重と関係している可能性がある。加えて、(準)周期的変動を含む時系列データ一般に関する機械学習アルゴリズム(再帰型ニューラルネットワーク)の適用可能性とその限界を、数値実験によって調べた。
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