研究課題/領域番号 |
19K04038
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 博之 京都大学, 防災研究所, 准教授 (50619640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脆性塑性遷移 / 断層構成則 / 摩擦実験 / 地震サイクルシミュレーション / 粘弾性緩和 |
研究実績の概要 |
昨年度は本計画の要となる高温高圧ねじり剪断試験機の垂直応力調整機構を作成し、高温での実験時に温度分布を安定化させるための冷却機構を調達した。しかし、垂直応力調整機構の制御部の作成に当初の想定以上のコストがかかる事が判明し、現在これを設計中である。力学データの質の向上のために、試料を封入した摺動部のシール材の材質の検討の為、真鍮、テフロン、ブロンズ添加テフロンの3種類の材料でシール部の部品を作成した。今後、新型コロナ対策による業務の制限が解除になり実験が可能になり次第、性能評価を行う予定である。 脆性・塑性遷移を考慮した地震サイクルシミュレーションの準備として、断層面周囲の媒質の粘性的な変形を、既存の動的地震サイクルシミュレーションのコードに実装した。弾性体であれば地震を繰り返す速度弱化のパッチを断層面に設定しケースに対し、周囲のMaxwell粘弾性体の緩和時間に関するパラメータスタディを行った。その結果、非弾性変形が顕著になるにつれ地震の繰り返し間隔は長くなり、ついには速度弱化パッチが永久に固着するタイプの地震性―非地震性遷移が起こる事を発見した。次元解析により緩和時間の減少は速度弱化パッチの増加と等価である事が示され、本発見は地震発生帯下限域において大きな地震が相対的に少なくなる事を示唆する。弾性体の場合、震源核サイズの増大による地震性―非地震性遷移は、スロー地震を伴う事が知られていたがが、今回発見した遷移はこれとは異なる。よって地震発生帯下限周辺でのスロー地震の発生は、媒質の粘弾性変形ではなく断層面の物性の変化が重要な役割を果たす事が示唆された。本成果はEarth, Planets, and Space 誌に発表した(Miyake and Noda, 2019, 申請者は責任著者)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の最大の課題は、高温高圧ねじり剪断試験機の改良であった。垂直応力の調整機構、温度分布を安定化させる冷却機構の調達は済み、上質の力学データを取るための試料のシール材の改良を現在試行している。垂直応力調整機構の制御部に課題が残るものの、この部分に関する計画の遅れとしては軽微であると評価している。一方、上述した通り地震サイクルシミュレーションにおける粘弾性変形の影響に関しても重要な成果をあげ、国際誌への発表と繋がった。これらの事を総合的に評価すると、概ね計画通りの進捗状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、新型コロナウィルス対策のための業務の制限により、実験の実施が困難となっている。この状況がどの程度続くか見通しが付かないため、当面は本計画のうち理論・数値実験的な部分を中心に進めたい。今年度は特に、脆性塑性遷移域における剪断帯の構成則モデルに関する研究を行う。代表的な構成則モデルには Shimamoto and Noda (2014) による現象論的なモデルや、Chen et al. (2017) による鉱物の粒子性に着目したモデルがある。前者は微物理が入っておらず、空隙率の変化など元となる実験時に測定できていなかった過程を考慮することが困難である。後者に関しては、構成鉱物が剛体粒子として振舞う可能性のある脆性領域の近くに関してよい近似である可能性があるが、鉱物の塑性変形によりマイロナイト的構造が発達する領域での適応可能性に難がある。そこで本計画では、剪断帯の連続体的な変形に着目した構成則の構築を、理論的考察と数値計算手法を用いて行う。試験機の整備に関しては、垂直応力調整機構の制御部を完成させる。今年度後半に実験が可能となれば、構成則モデルと実験データとの比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、垂直応力調整機構を調達したが、これに追加で制御部の調達が必要となる事が明らかとなった。そのため昨年度の AGU fall meeting への参加を見送り、その分の旅費を今年度の経費と合わせて、制御部の作成に充てる事とした。
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