研究課題/領域番号 |
19K04041
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
福田 惇一 神戸大学, 内海域環境教育研究センター, 講師(研究機関研究員) (10726764)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 石英粒成長実験 / 塑性変形 / 微細組織 / 天然石英 / 含水量 / 赤外分光法 |
研究実績の概要 |
石英は地殻の主要構成鉱物であり、粒径は反応や変形に関与する重要なパラメータである。本研究では石英の粒成長実験を行い、粒成長則を決定した。そして天然条件下で地質学的時間スケールでの粒成長について議論した。実験試料は平均粒径約3 μmの細粒石英集合体を用いた。実験はピストンシリンダーを用い、温度800-1100℃、圧力1.0-2.5 GPa、保持時間6-240時間で行なった。温度、圧力(両者は水のフュガシティー変化にも対応)の増加と共に石英の粒成長が促進され、最大平均粒径70 μmまで増加した。得られた粒成長則を天然の条件に適用し、変形による細粒化との競合機構について議論した。その結果、中部地殻条件下(温度400℃程度)では、一万年で粒径数十μmまでの粒成長が起こり、歪速度が10-12/秒よりも遅い場合、変形による細粒化(動的再結晶)よりも粒成長が優勢になることを示した。 次の研究実績として、様々な変成条件を経験した三波川変成岩に含まれる石英の含水量分布を赤外分光法面分析により測定した。赤外分光法は含水量測定に関して強力な手法である。水は岩石鉱物の塑性変形を促進するが、実際の天然試料の含水量を見積もった成果は少ない。測定した石英試料の赤外スペクトルで、水は2800-3800 cm-1に幅広い吸収帯を示すH2O流体として保持されていたことが分かった。次にH2O流体の含水量を見積もるために最適なキャリブレーションを選定した。そして得られた含水量変化は、三波川変成岩の低変成度の緑泥石帯(平均粒径約40 μm)では230-310 wt ppm、高変成度の曹灰長石-黒雲母帯(平均粒径約120μm)では40-90 wt ppmであることが分かった。この試料では変成度の増加に伴い粒径増加も見られることから、先の粒成長実験の結果を合わせて、粒成長が優勢であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石英の粒成長実験は、当初から仮定したパラメータである温度、圧力、保持時間の増加に応答して粒径が増加した。得られた粒径変化を先のパラメータと合わせて解析し、これまで不明であった粒成長則に関するパラメータである、粒径指数、活性化エネルギー、水のフュガシティー指数を決定することができた。得られた粒成長則を実際の天然条件に適用した際、変形による細粒化との競合機構と上手く関連づけ、議論することができた。本研究成果によって、実際の天然試料で変形による細粒化を被った組織が見られたとしても、粒成長の効果を考慮する必要性が示唆された。この結果は学術論文として公表した。また、公表した学術論文は、早くも他の研究者の学術論文や学会発表で引用されている。 次の研究実績である赤外分光法による三波川変成岩中の石英の含水量について、本研究ではまず石英の赤外スペクトルに見られる水の吸収帯から含水量を見積もるキャリブレーションについてまとめた。その結果、H2O流体による吸収帯、石英結晶構造中の-OHとしての水の吸収帯、両者の組み合わせでキャリブレーションの系統的な変化が見られた。このことは、今後同様に石英の赤外スペクトルから含水量を見積もる際に重要な項目である。また、本研究で三波川変成岩の石英から得られた粒界、粒内の含水量は一つの基準として、今後の天然石英の含水量を議論する上で重要である。本成果も学術論文として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は天然変形岩中に含まれる石英に注目する。先の粒成長、含水量の結果も踏まえて、特に地殻内部での変形を理解する上で重要なパラメータである応力、歪速度について評価する。このとき、塑性変形の各パラメータの関係性を示した流動則を使用する。天然試料はすでに愛知県足助剪断帯の花崗岩質変形岩や三重県月出地域の中央構造線路頭の花崗岩質変形岩を採取し、試料の微細組織観察などの研究が進んでいる。両地域は内陸型地震発生領域である脆性変形-塑性変形の遷移領域で変形しているため、関係する情報が保存されていることが期待できる。前者の地域は流体(水)の関与が少なく、後者の地域は流体の関与が大きかったことが、野外調査や試料の微細組織から確認できる。石英の含水量分布は赤外分光法面分析により、Fukuda and Shimizu (2019)によって評価したキャリブレーションに従って決定する。そして、含水量分布を組織と共に議論する。先述した流体の水の程度が大局的な二つの天然地域を比較することによって、変形への水の効果を評価する。 現在は特に足助剪断帯試料について研究を展開している。同剪断帯で見られる石英は割れ目に平均粒径数μmの細粒な石英が生成している。細粒な石英の生成過程に関しては、これまでに動的再結晶、溶液-沈殿、粉砕化などと様々な報告例がある。そこで今後、細粒石英の生成機構を後方電子散乱回折法(EBSD)分析によって得られる結晶学的方位のパターンから推察する。EBSD分析によって得られる結晶学的方位は、細粒な石英の生成過程について評価できると期待される。次に流動則を適用し、応力、歪速度の情報を引き出す得られた歪速度の値に基づいて、変形による細粒化と粒成長の効果について議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度で行なった石英の粒成長実験と天然石英中の含水量測定に関する研究は、本年度中に学術論文としても公表することができ、本年度の予算内で研究を行うことができた。一方、研究が予想以上に進展したことから、次年度に集中的に行う予定であった、足助剪断帯や中央構造線に関する研究を開始した。そのため前倒し請求を行ない、ある程度の財源を確保する必要があった。この前倒し請求分の一部が次年度使用分となった。使用計画は当初の予定の通り、研究に関わる物品購入や、学術雑誌に公表費用、国内外の学術大会や集会への参加と発表などである。
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