研究課題/領域番号 |
19K04041
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
福田 惇一 神戸大学, 理学研究科惑星学専攻, 理学研究科研究員 (10726764)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 脆性塑性遷移 / 石英 / 破砕 / 細粒化 / 粒径 / すべり系 |
研究実績の概要 |
本研究では地震発生領域である脆性塑性遷移条件下において、主要構成鉱物である石英の変形機構について評価した。試料として愛知県足助剪断帯の脆性塑性遷移条件下で変形した花崗岩質変形岩を用いた。同試料を線構造に平行かつ面構造に垂直にカットし(XZ面)、薄片の偏光顕微鏡観察を行った。その結果、最大数mmからなる石英は破砕しており、一つの粒子のアスペクト比は最大10:1で、剪断方向と平行に配列していた。ユニバーサルステージを用いて、破砕した石英のc軸方位を測定した。その結果、c軸の分布傾向として、XZ面に平行かつZ軸から数十度傾いていることが分かった。この理由として、石英の破砕は弱面であるR面で起こり、破砕粒子が剛体回転の後、剪断方向に配列したと考えられる。 また、破砕した石英粒子の割れ目には、幅数十から数百マイクロメートルのマイクロ剪断を伴い、数マイクロメートルからなる細粒石英粒子が生成していた。これらの細粒石英粒子は伸長していない。後方電子散乱回折法(EBSD)分析により、細粒石英粒子の結晶学的方位を測定した。その結果、c軸方位は石英のすべり系である底面aすべりと柱面aすべりに対応する二つがそれぞれ異なる試料領域から見られた。これらの二つのすべり系の違いは、局所的な応力や歪速度が異なることが考えられる。 水は石英の塑性変形を促進することから、様々な産地、変形の有無に注目して天然石英中の水の状態と含水量を測定し、データベースを構築していく必要がある。そこで、本試料について、赤外分光法を用いて、破砕石英粒子と細粒石英粒子の水を測定した。両石英の赤外スペクトルに違いは見られず、2800-3800 cm-1に流体の水を示す幅広い吸収帯が認められ、構造水の吸収帯は見られなかった。水の吸収帯を含水量に換算すると250-450 wt ppmであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脆性塑性遷移領域において、その主要構成鉱物である石英の微細組織観察と分析から多くの情報が得られており、研究は着実に進展している。ユニバーサルステージを用いて行なった破砕石英粒子のc軸分布は、石英の弱面であるR面での割れとその後の配向と対応づけられ、これまでにあまり報告がなかった天然での石英の破砕機構について、重要な情報が得られた。マイクロ剪断に伴う石英の割れ目に生成した細粒石英粒子は、EBSD分析から底面aすべりと柱面aすべりの二つのすべり系が得られた。特に後者のすべり系はこれまでには、塑性変形領域で報告されてきたものであった。しかしながら、本研究で見られたように、割れ目といった局所的な領域において、同すべり系が活動し、歪の解消に関する知見が得られてきている。赤外分光法による水の分析に関しては、水は岩石鉱物の塑性変形を促進することは古くから知られているものの、実際に天然試料についての水の状態と含水量に関する情報は少ない。従って、本研究で得られた結果は、今後変形実験やその他の天然試料と比較され、変形と水に関しての理解が深まることを期待する。
|
今後の研究の推進方策 |
足助剪断帯の花崗岩質変形岩について、これまでの研究の成果として、石英の割れ目に数マイクロメートルからなる細粒石英粒子が生成していることが認められた。これらの細粒石英粒子は底面aすべりと柱面aすべりの二種類のすべり系が認められた。このことは、これら二つのすべり系に関与する応力や歪速度が異なることが示唆される。従って、今後の研究計画として、これら二種のすべり系を数式的に記述する流動則を用いて、歪速度や応力などの変形パラーメータを評価する。 また、細粒粒子について、粒成長の効果についても評価する必要がある。粒成長を数式的に記述する粒成長則は、報告者のこれまでの研究によって実験的に決定している (Fukuda et al. 2019)。そこで、この粒成長則を該当する天然条件に適用し、粒成長の時間発展について評価する。 以上のことから、石英の破砕、破砕粒子の剛体回転、割れ目に発達する細粒石英粒子、細粒粒子の粒成長の効果と変形機構を総合的に評価し、脆性塑性遷移条件下での挙動について考察する。 一方、報告者は石英と同様に地殻の主要構成鉱物である長石についても、天然試料だけではなく、変形実験を通して、脆性変形挙動や、水の効果による塑性変形の促進機構、これらの変形と応力や歪速度との関係について評価してきた。今後の研究として、実際の天然条件下の脆性変形領域から以深の塑性変形領域において、これまでの実験結果を適用し、天然での挙動について考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の学術論文の公表費用とそれに関わる研究費用として計上していた予算分が、査読と原稿修正が年度を超えて続いている。主としてその費用が次年度に繰り越しとなった。現在も引き続き、査読と修正を繰り返しており、2021年度の公表を目指す。
|