地殻物質の塑性変形は断層下部延長領域での非地震発生域を支配する重要な機構である。主要構成鉱物の石英と長石について、結晶構造中や粒界に不純物として含まれる水は塑性変形を促進する。しかし、実際の試料中に含まれる水の種類、量、分布、そして塑性変形との関係性についてはほとんど理解されておらず、本研究で注目する。 本年度では、双葉断層東縁に位置する割山隆起帯で産出する、異なる塑性変形度を示す割山花崗岩を採取し、試料中に含まれる石英の動的再結晶の発展と含水量分布の変化に注目した。変形度を面構造や石英の動的再結晶の発達度合いから3つに大別し、ほぼ原岩、弱変形、強変形とした。これらの試料について、石英のホスト粒子と動的再結晶領域の含水量とその分布について赤外分光法面分析を用いて測定した。 赤外分光法分析の結果から、ホスト粒子、動的再結晶粒子共に、2800-3800 cm-1に幅広い赤外吸収帯が見られ、水はH2O流体として存在していることが分かった。ホスト粒子内部の含水量は40-1750 wt ppm H2Oと不均質に分布していた。一方、動的再結晶領域の含水量は、変形度によらず、100-510 wt ppm H2Oと少なく、均質に分布していた。さらに、ホスト粒子近傍の亜結晶領域の含水量はホスト粒子内部と動的再結晶再結晶領域の含水量の中間的な値を示した。このことから、石英中の水は動的再結晶の発達と共に放出されることが分かった。 研究期間全体の成果として、三波川結晶片岩中では石英粒子の動的再結晶による粒径減少により含水量の増加が見られ、粒径減少後に外部から粒界に水が導入された過程が推察でき、本年度の結果とは対照的である。このように、実際の天然試料の分析から、天然では水の放出、導入機構があることが示唆される。さらに、水の導入に伴う塑性変形強度の低下機構について、長石集合体を用いた実験から評価した。
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