研究課題/領域番号 |
19K04049
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
宮崎 隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (80371722)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | Ba安定同位体 / 海洋底堆積物 / 超温暖化 / 表面電離型質量分析計 / トータルエバポレーション / ダブルスパイク / 古海洋 |
研究実績の概要 |
Ba安定同位体比を用いた、古海洋環境変遷の解明可否検証に最適な研究ターゲットとして、インド洋ODP Site 738コアを昨年度選択した。そして、今年度は、研究協力者との議論をさらに進め、既知の炭素同位体データを参考にしながら、約5600万年前の暁新世始新世境界温暖極大期(Palaeocene-Eocene thermal maximum;PETM)相当層を含む、超温暖化イベントが繰返し発生した前期始新世を中心に分析代表試料を選択し、それら試料のバルクBa安定同位体分析を行った。この結果、温暖化指標である炭素同位体比の変化と類似したBa安定同位体比の変化が検出できる可能性が明らかとなった。 一方で、表面電離型質量分析計によるトータルエバポレーションダブルスパイク測定法の分析精度は、昨年度、±0.013‰(δ137/134Ba)を達成したが、今年度分析した代表試料のBa安定同位体比変化を明確にするためには、さらなる分析精度向上が必要であることが判明した。そこで、分析精度向上を目的として、表面電離型質量分析計の検出増幅器について、安定性試験に基づく接続最適化を行った。また、イオン化フィラメントの品質にも着目し、特にフィラメントリボンの厚さ均一性試験に基づき、分析に使用するフィラメントの選択と測定プログラムの改良を行った。この結果、分析精度は±0.008‰(δ137/134Ba)に向上した。 さらに、Ba安定同位体比分析前処理のために、全自動カラム分離装置(COLUMNSPIDER(CSP-50およびCSP-100))のBa分離プログラムを作成および実用試験を行い、コア試料からのBa元素分離作業を効率化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、緊急事態宣言および感染防止対応に伴う出勤制限のため、ラボでの分析作業時間を十分に確保することが出来なかった。このため、限られたラボ作業時間で研究を進めるため、多段階リーチングによる堆積成分分離を行わずに、バルクでのBa安定同位体比分析を優先した。これは、今回ODP Site 738コアから代表試料として選択した試料は、簡易的な酸分解実験において、炭酸塩以外の成分が認められず、バルク試料のBa安定同位体比は、炭酸塩のBa安定同位体比を反映していることが強く予想されたためである。バルク試料分析の結果、Ba安定同位体比変化は炭素同位体比変化と類似する傾向を示し、バルク試料分析でも温暖化に伴うBa安定同位体比変化を検出できる可能性が明らかとなった。このため、研究手法の単純化が可能となり研究の遅れを取り戻しつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
超温暖化イベントにより、Ba安定同位体比が変化することが明らかになりつつあるが、その変動幅は、超温暖化イベントの規模に規制される可能性がある。分析精度がより向上すれば、小規模なイベントでも検出することが可能となり、より詳細な環境変動解明につながる。このため、表面電離型質量分析計によるトータルエバポレーションダブルスパイク測定法の改良は引き続き進め、可能な限り精度の向上を目指す。特に、フィラメント上での試料イオン化は分析精度に与える影響が大きいため、フィラメントへの超局所試料塗布の実現など改良を進める。 また、今年度Ba安定同位体比分析を行ったインド洋ODP Site 738コア代表試料が示すBa安定同位体比変化について、より解像度を上げるため、さらに細かく試料を追加選択し、Ba安定同位体分析を行う。これらの分析結果と微量元素濃度や炭素同位体比データなどとの対応関係から、Ba安定同位体比を変化させる要因を明らかにし、Ba安定同位体比の古海洋環境トレーサーとしての有効性を評価する。この結果は、学会および論文にて発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)緊急事態宣言および感染防止対応に伴う出勤制限によるラボ分析作業の遅れや、成果発表予定の変更により、その分の消耗品費および旅費が発生しなかったため。 (使用計画)海洋堆積物試料のBa安定同位体比分析を引き続き進めるため、各種高純度試薬、フィラメント材料などの実験消耗品の購入と臨時研究補助員の雇用を行う。また、成果発表のため、学会参加費用および論文費用を計画している。
|