研究課題
近年の急激な二酸化炭素濃度上昇に起因する海洋酸性化に伴い,石灰質(炭酸塩)の殻・骨格を形成する海洋生物への多大な影響が懸念されている.しかし,海洋表層における主要な石灰化生物・プランクトンである浮遊性有孔虫が,海洋酸性化をどう反映するのかについては定性的な議論にとどまっている.その理由は,有孔虫骨格が微小かつ複雑な形態であるため,石灰質殻の正確な測定方法がなく,これまで間接的手法でしか酸性化の影響を検証できなかったからである.近年実用化されたマイクロX線CTは,1um以下の解像度で有孔虫殻(体積・密度)を測定可能なため,これを用いれば,直接,有孔虫の石灰化への影響を精密に検証できる.2020年度は,環境パラメータを制御した飼育実験で,より溶解しやすい大型底生有孔虫(Amphisorus kudakajimensis)を用いた分析を行った.これらの飼育個体については,無性生殖後に水温一定(25°C)でpHのみを4段階で変化させた(pH7.7-pH8.3)環境で生育させているため,pHと炭酸塩生産量との定量的な関係式を明らかにすることができる.有孔虫の殻体積・殻密度は,マイクロX線CT測定および殻重量測定より求めることができる.その結果,標準試料も含めた122サンプル全ての測定を終了させ,pHと有孔虫殻体積との間に明瞭な相関があることを明らかにした.また,殻体積を確定できたことにより,個体重量測定より殻密度の算出ができるため,pHと有孔虫殻密度にも相関があることが明らかになった.本研究結果より,海水のpH低下は,大型底生有孔虫の炭酸塩殻において,量的(体積)減少のみならず質的(殻密度)な減少にも影響をおよぼすことが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度は,全ての飼育実験個体の分析および結果の解析を終了し,さらにこれらの成果を投稿論文にまとめることができた.これは,主に学内の分析装置を用いたため,新型コロナウイルス感染症予防による測定計画の延期がほとんどなかったのが理由である.また新型コロナウイルス感染症のために,学会や会議の多くが現地開催が中止され,オンライン開催となった.現地開催での幅広い議論や交流が制限されたのは大変残念であったが,現地までの移動時間を削減できた分,当初の予想よりも早いペースで本研究の測定結果を投稿論文にまとめる事ができた.2021年度は投稿論文の学術雑誌掲載を目指すとともに,投稿論文成果に基づく次の段階へとステップアップした研究内容が期待されるため,本研究課題のさらなる進展が見込まれる.
本研究課題は順調に進展しており,今後もこのまま予定された作業(論文投稿・出版,国内・国際学会発表)を進めていきたい.2021年度も,新型コロナウイルス感染症予防により,研究集会や研究発表などでの現地開催中止などが危惧されるが,引き続き,オンライン開催やWeb会議などを活用して対応していきたい.
コロナにより,予定していた国際学会や国内学会への参加ができなかったが,その分,次年度での参加を予定している.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
Marine Micropaleontology
巻: 163 ページ: 101960~101960
10.1016/j.marmicro.2021.101960
巻: 161 ページ: -
10.1016/j.marmicro.2020.101924
Global and Planetary Change
巻: 193 ページ: -
10.1016/j.gloplacha.2020.103258