研究課題
近年の急激な二酸化炭素濃度上昇に起因する海洋酸性化に伴い,石灰質(炭酸塩)の殻・骨格を形成する海洋生物への多大な影響が懸念されている.しかし,海洋表層における主要な石灰化生物・プランクトンである浮遊性有孔虫が,海洋酸性化をどう反映するのかについては定性的な議論にとどまっている.その理由は,有孔虫骨格が微小かつ複雑な形態であるため,石灰質殻の正確な測定方法がなく,これまで間接的手法でしか酸性化の影響を検証できなかったからである.近年実用化されたマイクロX線CTは,1um以下の解像度で有孔虫殻(体積・密度)を測定可能なため,これを用いれば,直接,有孔虫の石灰化への影響を精密に検証できる.2021年度は,環境パラメータを制御した飼育実験で,より溶解しやすい大型底生有孔虫(Amphisorus kudakajimensis)を用いた分析の取りまとめおよび論文執筆を行った.これらの飼育個体については,無性生殖後に水温一定(25°C)でpHのみを4段階で変化させた(pH7.7-pH8.3)環境で生育させているため,pHと炭酸塩生産量との定量的な関係式を明らかにすることができる.また,有孔虫の殻体積・殻密度は,マイクロX線CT測定および殻重量測定より求めることができる.その結果,標準試料も含めた122サンプルの分析より,pHと有孔虫殻体積との間に明瞭な相関があることを明らかにした.また,殻体積を確定できたことにより,個体重量測定を基に殻密度の算出ができるため,pHと有孔虫殻密度にも相関があることが明らかになった.そして本研究より,海水のpH低下は,大型底生有孔虫の炭酸塩殻において,量的(体積)減少のみならず質的(殻密度)な減少にも影響をおよぼすことが示唆された.以上の結果を取りまとめ,国際学術誌であるScientific Reports誌に論文を投稿し,受理,出版された.
1: 当初の計画以上に進展している
2021年度は,前年度までに終了した飼育実験個体の分析および結果の解析を取りまとめ,本研究の成果を投稿論文にまとめ,国際学術誌であるScientific Reports誌に論文を投稿,受理,出版することができた.また,前年度に引き続き,新型コロナウイルス感染症のために,学会や会議の多くが現地開催が中止され,オンライン開催となった.現地開催での幅広い議論や交流が制限されたのは大変残念であったが,現地までの移動時間を削減できた分,当初の予想よりも早いペースで本研究の測定結果を投稿論文にまとめ,投稿,出版する事ができた.2022年度は現地開催の国際学会で発表し,海外の研究者への本研究成果の直接的な発信を目指すとともに,投稿論文成果に基づく次の段階へとステップアップした研究内容が期待されるため,本研究課題のさらなる進展が見込まれる.
本研究課題は順調に進展しており,今後もこのまま予定された作業(国内・国際学会発表)を進めていきたい.2022年度も,新型コロナウイルス感染症予防により,研究集会や研究発表などでの現地開催中止などが危惧される.できるかぎり現地開催の学会で発表し,海外研究者への成果アピールや情報交換を目指すが,それが厳しい状況になった場合には,オンライン開催やWeb会議なども活用して対応していきたい.
新型コロナウイルス感染症のために,予定していた国際学会や国内学会への参加ができなかったが,その分,次年度での参加を予定している.
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 19988
10.1038/s41598-021-99427-1
Marine Micropaleontology
巻: 163 ページ: 101960~101960
10.1016/j.marmicro.2021.101960