研究課題
近年の急激な二酸化炭素濃度上昇に起因する海洋酸性化に伴い,石灰質(炭酸塩)の殻・骨格を形成する海洋生物への多大な影響が懸念されている.しかし,海洋表層における主要な石灰化生物・プランクトンである浮遊性有孔虫が,海洋酸性化をどう反映するのかについては定性的な議論にとどまっている.その理由は,有孔虫骨格が微小かつ複雑な形態であるため,石灰質殻の正確な測定方法がなく,これまで間接的手法でしか酸性化の影響を検証できなかったからである.近年実用化されたマイクロX線CTは,1um以下の解像度で有孔虫殻(体積・密度)を測定可能なため,これを用いれば,直接,有孔虫の石灰化への影響を精密に検証できる.最終年度は,これまでの大型底生有孔虫における結果をさらに発展させ,より広域に分布する浮遊性有孔虫への応用を目指し,現生浮遊性有孔虫個体を用いたマイクロX線CT撮影を行い,将来への課題を明確にした.研究期間全体では,環境パラメータを制御した環境で飼育した大型底生有孔虫を用いたマイクロX線CT分析を行い,海水のpH低下は,大型底生有孔虫の炭酸塩殻において,量的(体積)減少のみならず質的(殻密度)な減少にも影響をおよぼすことが示唆された.また一方,水温により殻重量および殻体積が明瞭に減少することも明らかにした.そして本研究より,将来の海洋酸性化および海水温上昇が,大型底生有孔虫の炭酸塩殻の重量および体積を大幅に減少させることが明らかとなった.一方で,水温変化については殻密度には影響をおよぼさず,pH低下による海洋酸性化の影響とは異なる結果になることが示唆された.これらの結果は国際学術誌(Scientific Reports誌およびMarine Micropaleontology誌)に出版された.また前者は「Top 100 Earth science Scientific Reports papers in 2021」に選出された.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
Scientific Data
巻: 10 ページ: 1-16
10.1038/s41597-023-02264-2
Marine Micropaleontology
巻: 181 ページ: 102232~102232
10.1016/j.marmicro.2023.102232