研究課題/領域番号 |
19K04057
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
入月 俊明 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (60262937)
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研究分担者 |
山田 桂 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (80402098)
渡邉 正巳 島根大学, エスチュアリー研究センター, 客員研究員 (80626276)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 貝形虫化石 / 花粉化石 / 北半球氷河作用 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
完新世のコア試料を用いた貝形虫分析に関しては,島根県隠岐島後,島根・鳥取県の中海を対象に研究を行い,さらに,別府湾で行った研究と比較した.結果として,世界的な気候変動,特に降水量の変化に貝形虫群集が敏感に反応し,種多様性や密度が変化しているという結果を得た. 次に,昨年度実施予定であった福井県小浜湾における海洋調査を行った.具体的には,小浜湾西部から中央部にかけての16地点で水深,水温,塩分の測定を行い,表層堆積物を採取し,記載と大型底生動物の同定を行った.その後,実験室にて採取された表層堆積物を洗浄し,貝形虫を抽出した.現段階では,約60種の貝形虫が同定されている.主に群集は日本全国の内湾泥底に優占する種で構成されているが,殻の微量元素分析に主として用いる種も多く産出した.これらの群集は底質と水深の違いに応じていくつかの群集にまとめられた. 新潟県胎内市に分布する鮮新―更新統鍬江層の花粉化石分析に関しては,2020年度の分析結果が予察的であり,分析に用いた花粉個数が少なかったため,2021年度は約2.9 Ma~2.58 Maの層準から採取した18試料について再度同定個数を増やして花粉化石分析を行った.得られた花粉化石群集のデータをもとにクラスター分析を行った結果,新第三紀と第四紀の境界を挟んで大きく2つの花粉化石帯に分けられた.下位の花粉化石帯では,スギ科型花粉やマツ属に代表される針葉樹花粉が全体的に多かったが,針葉樹花粉と広葉樹花粉の割合の周期的な変化が認められた.これは,針葉樹花粉は広葉樹花粉に比べて遠方へ飛来しやすいことから,この周期的変化は,海進・海退による堆積環境の変化を記録していると考えられる.上位の花粉化石帯では,下位と比べて針葉樹花粉の割合が減少し,ブナ属のような広葉樹の割合が増加した.この変化は汎世界的な北半球氷河作用の強化によると推定された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も2020年度と同様,新型コロナウィルスの影響で,大学・自治体等の対策方針から,他県における野外調査や他機関における試料分析を控える要請が長く続いた.しかしながら,対策のレベルが下がった期間を利用して,2020年度行う予定であった福井県小浜湾の海洋調査と新潟県鍬江層の地質調査を行うことができたため,貝形虫や花粉化石の群集解析を進めることができたが,まだ最終的な成果には至っていない.さらに,2021年度に高知コアセンターで行う予定であった貝形虫殻の微量元素分析については,先方の機関における試料の分析を控える要請があり,行うことができなかった.このような理由により,本来は2021年度に研究を終える予定の科研費ではあったが,2022年度を最終年度とする期間延長を行なった. 一方,本研究地域における気候変動と貝形虫との関連に関する結果と比較するためにまとめた別府湾の研究結果は国際誌のMarine Micropaleontologyにすでに印刷中であり,2020年度に再検討を行った島根大学松江キャンパスにおける分析結果については,投稿原稿が完成し,間も無く,国内査読付き学術雑誌である汽水域研究(Laguna)に投稿予定である.他にも中海や青森湾の貝形虫群集に関する研究については,分析が終了しており,現在,7月に行われる日本古生物学会での発表準備や投稿論文の作成を行っているところである. このように,2021年度に研究を終了する予定の科研費ではあったが,2022年度を最終年度とする期間延長を行なったため,総合的には,研究終了に向けて順調に進み出したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本科研費の研究事業は,当初2021年度に終了予定であったが,新型コロナウィルスの対策の影響を受け,遅れ気味であったため,1年間の延長申請をして認められ,2022年度が最終年度となる.そこで,2022年度は,まず,研究がやや遅れている内湾堆積物(青森湾,女川湾,小浜湾,対馬の舟志湾など)から抽出した貝形虫種のK. japonicaやB. bisanensisなどの石灰質殻を使った微量元素分析を優先的に行い,Mg, Sr, Caの濃度を測定して,Mg/Ca比やSr/Ca比に基づく,水温・塩分換算式を確立し,既存のコア試料ですでに分析された結果を応用して,時間を遡って,古水温や古塩分の時系列変化を復元する.また,上記の内湾から得られたB. bisanensisの形態解析の基づき,塩分換算式の確立も試みる. さらに,新潟県の上部鮮新統鍬江層の花粉化石分析に関しては,引き続き分析試料数を増やし,すでに行われた貝形虫化石の群集解析や,殻の微量元素分析に基づく,古水温変動と比較できる精度で花粉化石分析を進め,数千年スケールの陸上と海洋気候変動との関連性を解明する. そのほか,この3年間で分析を行った全ての研究結果については,日本古生物学会,日本地質学会,汽水域研究会,植生史学会などの関連学会で発表を行うとともに,国内外の学術雑誌への投稿を行う.これらを通じて,日本海沿岸域における鮮新世以降の陸上と沿岸気候の変動過程を高時間分解能で復元する当初の研究目的を果たす.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も昨年度と同様に年度当初から新型コロナウィルスの影響で,島根大学・島根県の対策方針により,他県における野外調査や他機関における試料の分析を行えない状況が長く続いた.そこで,当初予定していた小浜湾や新潟県での調査は夏休み以降に実行することができたが,高知コアセンターにおける分析などを行うことができず,それらに関わる旅費と分析費などを使用しなかったことが主な理由である.また,研究成果を発表するための国際会議や国内の様々な学会なども全てキャンセルかオンラインとなった.そのために計上していた学会旅費などを使用しなかったことも理由の一つである. 本科研費の研究事業は,新型コロナウィルスの対策の影響を受け,1年間の延長申請をして認められ,2022年度が最終年度となる.そこで,2022年度には分析のための旅費と分析費,学会旅費などに主に使用する計画である.
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