今年度に関しては,まず,これまで日本海周辺,すなわち南から対馬舟志湾,島根県中海,福井県小浜湾,および青森県青森湾において行われた海洋調査結果と採取された微小甲殻類の貝形虫試料の分析結果を総括し,測定された環境因子と貝形虫群集との間の相関関係を解析した.結果として,対馬暖流が南から北へと流れることによる水塊構造や水温の違いと群集特性や各種の分布との関連性が明らかになった. また,新潟県胎内市に分布する鮮新―更新統鍬江層の花粉化石分析に関しては,鍬江層上部の約3.0~2.58 Maの層準から採取したシルト岩試料数の分析個数を増やし,さらに,花粉化石の計数も増やして分析を行った.結果として,検出数の多かった分類群は,ギンサン属,ツガ属,イヌカラマツ属,スギ科型(スギ属,メタセコイア属,スギ科),ハンノキ属,ブナ属,アカガシ亜属であった.その中でも,ギンサン属,スギ科型,およびブナ属は特徴的な変動を示した.得られた花粉化石群集のデータをもとに統計解析を行った結果,下部の花粉化石帯Ⅰと上部の花粉化石帯Ⅱに大別された.花粉化石帯Ⅰでは,広葉樹花粉に比べて針葉樹花粉の割合が卓越し,スギ科型が多く検出された.また,スギ科型の割合が周期的に変化するとともに,ギンサン属が.スギ科型と負の相関を示した.花粉化石帯Ⅱでは,花粉化石帯Ⅰに比べてスギ科型などの温帯針葉樹花粉の割合が減少し,ブナ属などの冷温帯広葉樹花粉の割合が著しく増加した.花粉化石帯ⅠからⅡへの変化は,約2.7 Maに生じており,汎世界的な北半球氷河作用の強化に関連した植生の変化であると推定された.一方,約3.0~2.7 Maの間では,海洋性微化石群集は氷期・間氷期に対応する明瞭な変動が認められたが,花粉化石群集に関しては,大きな変化は認められなかった.
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