研究課題
コロナウイルスの影響で,予定していたベトナムでの地質調査を実施することができなかった.そのため,2019~2020年の調査で採取した岩石・化石試料とデータを用いて研究を進め,試料などの不足分はベトナム人研究協力者に試料採取と日本への試料発送を依頼して研究を進めた.今年度の主な研究は,北部ベトナムハーザン省の中部古生界SiKa層とランソン省の下部三畳系LangSon層の微化石を用いた層序学,分類学,古生態学分野の研究で,ベトナムの層序および地質年代や初期陸上植物相の復元,後期シルル紀オストラコーダ類の分類と古生態,ペルム紀末大量絶滅の回復期における放散虫化石の種構成などについて明らかにし,研究成果を学術誌に掲載することができた.(1)従来までデボン系とされていたSiKa層の花粉化石を調べた結果,Retusotriletes simplex,やDyadospora murusdensaなどからなる後期シルル紀の花粉化石群集が識別できた(Julien et al., 2021).また,堆積相解析を用いてSiKa層最上部の堆積環境を復元した結果,河川~エスチャリー相からなる非海成層を主体としていることが明らかになった(小松ほか,2021).さらにエスチャリー堆積物中の微化石を調べた結果,複数のオストラコーダを確認することができ,オストラコーダ類はシルル紀後期に汽水域に適応したことが明らかになった(McGairy et al., 2021).(2)下部三畳系LangSon層の放散虫化石を抽出したところ,RuzhencevispongusやTetragregnonなどの古生代型の放散虫化石が多産し,古生代型の放散虫化石はスミシアン亜紀とその末期に絶滅し,中生代型の放散虫化石はスパシアン紀初期に出現していることが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍でベトナムでの地質調査が実施できなかったため,堆積相解析や大型化石を用いた研究を進めることができなかった.そのため,すでに採取済の試料をベースに研究を進める必要があったため,微化石の研究を優先して,花粉やオストラコーダ,放散虫化石などの抽出に専念した.その結果,多くの研究成果をあげることができ,英文学術誌に4編,和文学術誌に1編の論文を掲載することができた.また,これらの研究成果と国内のデータを比較する目的で岩手県大船渡地域や九州の古生界も調査した結果,今後の研究につながる微化石試料やデータを得ることができた.
今年度は9~10月にベトナムで地質調査を実施できる目処がたった.秋のベトナム訪問は,ハーザン省のシルル系やデボン系と北部ベトナムに広く分布している三畳系の地質調査を最優先し,この2年間実施することができなかった地質調査の遅れを少しでも取り戻す予定である.また,9月までは微化石を用いた研究やベトナムとの比較研究のための国内調査などを中心に研究を進める.
コロナ禍でベトナムでの地質調査が実施できなかったため,その予算の一部を次年度に繰り越した.この繰り越した分の費用については,次年度のベトナム調査か微化石抽出時に必要な消耗品などの物品費に使用する予定である.
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (4件) 図書 (1件)
Paleontological Research
巻: 25 ページ: 41-58
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巻: 205 ページ: 104570-
堆積学研究
巻: 79 ページ: 1-2
Annales de Palaeontologie
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