研究課題/領域番号 |
19K04061
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平沢 達矢 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (60585793)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 進化発生学 / 古生物学 / 脊椎動物 / 筋骨格系 / 腱 / 化石 / 恐竜 |
研究実績の概要 |
本研究では、非鳥類恐竜から鳥類に至る系統において、翼の筋骨格形態がどのような移行段階を経て進化したのかについて、特に鳥類独自の筋である「前翼膜筋」の進化的起源を解明することに主眼を置き、発生学実験および化石標本の調査を通じて解明することを目指している。今年度は、ニワトリ胚における前肢筋発生過程について、組織切片観察およびin situ ハイブリダイゼーションによる遺伝子発現パターン解析を進めた。結果、前翼膜筋前駆細胞は肩部と手首部の2つの集団があり、それらは前翼膜の真皮直下に分布するようになること、前翼膜内ではscleraxisを発現する細胞が観察されないことから腱前駆細胞が不在であると見られることが分かった。また、前翼膜筋前駆細胞が分布する真皮直下の結合組織には、先行研究でマウスの皮幹筋の発生に関与することが報告されているプロトカドヘリンFat1の遺伝子発現が観察され、前翼膜筋は、哺乳類の皮幹筋と共通の発生機構で真皮直下に発生する可能性がある。また、中国から産出した「羽毛恐竜」の実物化石を観察した。前翼膜の痕跡が保存されているカウディプテリクスCaudipteryx標本で、前翼膜筋の痕跡が残っている可能性も視野に入れて調査を進めたが、現在までに調べた標本の中にそれを認めることはできていない。一方で、前翼膜の痕跡は第1指の掌側の軟組織痕跡につながっており、現生鳥類における前翼膜と第1指の位置関係と極めて類似していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生学研究は順調に進んでいる。当初の予定より実物化石標本の調査がやや遅れているが、2年目以降に十分挽回できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
発生学研究でこれまで得られた観察データからは、前翼膜内の真皮や真皮直下の結合組織が前翼膜筋の発生に関与している可能性が強く示唆されている。これを検証するため、ニワトリ胚において異所的組織移植実験を展開する。また、比較のため、アメリカアリゲーター胚(すでに入手)とスッポン胚における前肢筋の発生過程の観察も進める。古生物学研究としては、前翼膜の痕跡が保存されている獣脚類化石標本の調査を進めると同時に、産状が保存されている獣脚類化石の肘関節および手首関節の角度データを集める。前翼膜(および前翼膜筋)が備わっていた種では、これらの関節角度は一定の範囲に収まると予想され、獣脚類系統のうちどのクレードで前翼膜が発達するようになったか復元できるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
発生学研究での進展を考慮し、化石標本の調査について初年度に展開する分を縮小し、2年目以降に本格的に進めることにした。
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