研究課題/領域番号 |
19K04062
|
研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
重田 康成 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (30270408)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 魚竜 / 三畳紀 / 最古 / 産出年代 / タイサウルス |
研究実績の概要 |
原始的な魚竜で知られているタイサウルスの産出年代を特定するために、令和元年1月26日~2月8日まで、タイ南部のパッタルン地域のKhao Thongセクションにおいて、三畳系の地質調査を行った。高精度のルートマップと柱状図を作成し、地質構造、岩相層序、堆積相、化石の産状について詳細な観察を行い、岩石・化石試料の採集を行った。なお、調査に際しては、タイ国鉱山地質局の協力のもとで行った。 Khao Thongセクションは層厚が100メートルを超え、主に塊状や層状のドロマイトからなる。1980年代に行われたタイサウルスの発掘に立ち会った地元の方の話から、タイサウルスの発掘層準を特定し、その2.4メートル下位にアンモナイト密集層を発見した。アンモナイトは風化のため、殻や内部が溶解し、石灰岩中に空洞となっていたため、シリコン材を空洞に充填することによって、アンモナイトの型を多数採集した。採集した資料を国立科学博物館に持ち帰り、詳細に検討したところ、アンモナイトはMarcouxia属の新種である可能性が高いことが判明した。Marcouxia属のアンモナイトはアメリカ・アイダホ州のSpathian後期のColumbites parisianus帯からのみ知られている。従って、タイサウルスの産出年代は、Spathian後期の可能性が高いことが判明した。最古の魚竜といわれている南中国のチャオフサウルスは、Spathian最後期のProcolumbites帯から見つかっている。Columbites parisianus帯は、Procolumbites帯よりも1化石帯古いとされている。このことは、タイサウルスが最古級の魚竜である可能性が高いことを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、これまでタイにおいて、三畳系やペルム系の地質調査を行った経験があり、その時得られた露頭の状況や化石の保存状態に関する基礎データが今回の調査に大いに役にたった。とくに、シリコン材を用いてアンモナイトの型を採集する方法は本研究においては極めて有効であった。調査は、タイ国鉱山地質局の協力を得て、効率よく行うことができた。現地調査の進行具合は天候に大いに左右されるが、幸い天候にめぐまれ、順調に調査を遂行することができた。採集した岩石・化石資料の国外への持出しについては、タイ国鉱山地質局の許可が必要であるが、手続きが順調に進み、すみやかに日本に運搬し、国立科学博物館において化石資料の検討を行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、野外調査として、ロシア・プリモーリエ州南部地域と三陸海岸において、三畳系の地質調査を行い、魚竜化石が採集された周辺の高精度のルートマップを作成し、地質構造、岩相層序、堆積相、化石の産状について詳細に調べる計画であった。ロシア・プリモーリエ州南部地域の場合、調査は天候が安定する6月が最適であるが、国際情勢から、今年度の調査は困難であると判断した。一方、三陸海岸での調査の場合、可能であれば、COVID-19の終息後に現地調査を行う。また、国立科学博物館に保管されている、ロシア・プリモーリエ州南部地域産や三陸海岸産の化石資料を用いて、化石の分類学的研究や生層序学的研究を行う。可能であれば、令和3年度に計画していた国内外の研究機関の訪問を今年度に行い、タイプ標本や参考標本の観察、写真撮影、型取り作業を行い、採集した化石の分類学的研究を進める。 令和3年度は、三陸海岸において、地質調査の補足調査を行い、岩相層序、堆積相、大型化石の種構成や各種の層序分布を明らかにする。採集した化石の剖出作業を行うと共に、地質調査のデータを総合的にとりまとめて、各化石の層序分布を把握し、魚竜の産出年代を特定する。本研究の成果を、関連する学会や集会において発表すると共に、学術雑誌などで公表する。
|