研究課題/領域番号 |
19K04064
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研究機関 | 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター) |
研究代表者 |
冨田 武照 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 研究員 (90774399)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胎仔便 / 板鰓類 / 授乳 / 無機結晶 |
研究実績の概要 |
現生板鰓類の中には、胎仔が子宮表面から分泌されるミルクを摂取して成長する仕組みを持つ仲間が存在する。この「子宮内授乳」の仕組みの起源を明らかにするのが本研究の目的である。 まず、授乳の仕組みを持つ板鰓類の胎仔が、大量に発生する便で羊水を汚さないようにする仕組みがあると考え、岡山で採集されたアカエイの胎仔の腸の調査を行った。その結果、糞を生まれるまで体内にため込む仕組みを持つことが明らかとなった。具体的には、直腸が産まれる直前まで貫通しておらず、糞をため込むように親より大きな腸を持つことなどが明らかとなった。さらに、腸の後半部分には水分吸収にかかわる細胞が高密度で見られ、腸内に蓄積される糞の体積を減らす役割を担っている可能性が示唆された。これらの特徴は、卵生のエイ類には見られないことも分かった。巨大な腸と蓄積された胎仔便は、アカエイと同じく授乳の可能性が疑われるネズミザメ科のサメにも確認され、授乳と糞の蓄積能力との関連が示唆された。この結果は、学術論文として投稿し、受理・出版された。 また、胎仔便は化石にも残ることが期待されるため、授乳の決定的証拠となりうる胎仔便の成分の探索を行った。まず、宮城県で水揚げされたネズミザメの胎仔から胎仔便を採取し、化学処理ののち、琉球大学で残渣中の無機結晶の解析を行った。その結果、データ数は少ないものの、炭酸塩成分が卓越することが確認された。この無機結晶は化石でも残りうるため、子宮内授乳の証拠となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、胎仔便と授乳との関連性を明らかにすることが主な目標であり、アカエイの詳細な調査により、この目標はおおむね達成できたといえる。さらに、この成果は学術論文として発表することができ、これは今後の研究課題の遂行にとって基盤となるものである。さらに、ネズミザメを用いた授乳の証拠となりうる胎仔便の無機成分の特定にも、データ数が少ないながらも一定の成果が得ることができた。特に、結晶成分の抽出のプロセスが確立されたことは大きな成果と言える。これらのことを総合的に判断して、研究はおおむね順調に進展しているといえる。 一方で、現時点ではこの無機結晶と授乳との関連性は十分に明らかになっているとは言えず、サンプリングの継続によるデータの拡充と、無機結晶の詳細な分析によるさらなる実態の解明(生成プロセスの解明、授乳との関連性)が、化石への応用のために必要不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
宮城県気仙沼漁協の協力を得て、さらなるネズミザメの胎仔便のサンプリングを行う。そうして得た胎仔便中の結晶成分を抽出し成分の分析を引き続き行う。特に、炭酸塩結晶の鉱物組成について明らかにする。同時に、胎仔便中に含まれる液体成分の分析も進め、結晶の腸内での沈殿条件を明らかにすることで生成プロセスについて推定する予定である。これらの分析には、引き続き琉球大学の分析設備を利用する予定である。これらの結果を統合することで、本研究課題の最終目標(化石への適用)の達成のための礎とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大のため、宮城県で予定していたサメ胎仔のサンプリングが中止となったこと、また当初予定していた分析が、分析機関(琉球大学)の閉所により次年度に繰り越さずを得なくなったため。次年度7月以降に、該当機関と調整のうえ、これらの計画を逐次遂行する計画である。
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