現生の胎生板鰓類の中には、胎仔が産まれるまでの期間、子宮表面から分泌される脂質に富む分泌物(子宮ミルク)を摂取して成長する種類が存在する。この「子宮内授乳」は脊椎動物で最古の授乳メカニズムである可能性があるが、その詳細は分かっていない。 前年度までの研究によりミルク摂取を行う胎仔腸内には炭酸塩の結晶が含まれ、この結晶の有無が化石種における胎仔のミルク摂取の有無の指標になる可能性があること、この結晶が胎仔の腸内細菌によって形成された可能性が示唆された。 これらの仮説を証明するため、本年度は宮城県気仙沼漁港に赴き、水揚げされたネズミザメの胎仔の腸内便のサンプリングを行なった。この腸内便中の細菌叢をDNAメタバーコーディングの手法により解析を行い、親の腸内便のものと比較を行なった。その結果、胎仔の腸内細菌叢はマイコプラズマ属が90%以上を占めることで特徴づけられることが分かった。この細菌叢は親とは明らかに異なっており、胎仔腸内のマイコプラズマ属が腸内結晶を生成に関与している可能性が示唆されたが、その証明にはさらなる研究が必要である。 本研究を通じて、胎仔の腸内便中の炭酸カルシウム結晶と、子宮内ミルクには強い関係があることが初めて示されたといえる。炭酸カルシウムは地層中でも安定的に保存されることから、化石胎仔の腸内結晶を発見することで、子宮内授乳の化石証拠が今後得られると考えられる。
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