研究課題/領域番号 |
19K04072
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
西田 政弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60282828)
|
研究分担者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10216806)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 宇宙工学 / 環境 / 衝撃工学 / 材料力学 |
研究実績の概要 |
本研究では,耐熱性があり,電子線,紫外線に強いポリイミドを用いたポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材の表面に,耐原子状酸素コーティング(シルセスキオキサン誘導体)を施した材料を宇宙環境に強い材料として提案し,宇宙ゴミを模擬した飛翔体を超高速衝突させ,破壊状況およびイジェクタ(噴出物)の発生を詳しく調べる.宇宙環境のうち,電子線および原子状酸素を試験片に照射し,宇宙ゴミを超高速衝突させることで,それら宇宙環境の影響,特にその複合効果およびメカニズムを明らかにする. 研究期間の1年目(2019年度)は,耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材(擬似等方材)を作製し,その試験片を用いて,宇宙ゴミを模擬した飛翔体の超高速衝突実験を行い,破壊の様子,主に,貫通孔径の周りの様子,イジェクタ(噴出物)の発生を明らかにした.コーティング厚さ5 μm,20 μmの試験片を作製することで,その影響も調べた.さらに,耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材に電子線および原子状酸素を照射し,その試験片を用いた超高速衝突実験を行うことで,貫通孔径の周りの様子,イジェクタ(噴出物)の発生を調べた. 2年目の2020年度は,コーティング厚さが異なる試験片を作製し,コーティング厚さの影響およびエポキシ樹脂/炭素繊維強化複合材(擬似等方材),アルミニウム合金薄板にコーティングを施した.エポキシ樹脂/炭素繊維強化複合材(擬似等方材)でもコーティングは有効で,ポリイミド樹脂の場合より薄いコーティングでも効果が明確であることがわかった.また,電子線を照射したのちに,原子状酸素を照射した材料に対して,直径1.6 mm,衝突速度 3 km/sの衝撃の場合でも,電子線,原子状酸素の影響は小さいことがわかった.宇宙環境に強い材料を提案するためのデータを収集していく.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究期間の1年目(2019年度)は,耐熱性があり,電子線,紫外線に強いポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材(ポリイミドCFRP)の擬似等方性積層板(8 ply, 厚さ1mm,縦75 mm×横150 mm)をJAXA提供のプリプレグから作製し,耐原子状酸素コーティングとして,有機-無機ハイブリッド材料であり,耐原子状酸素性が認められている「シルセスキオキサン誘導体」(SQシリーズ,東亞合成株式会社)の標準グレードを用いて,厚さ 5 μmおよび20 μmの試験片を作成した.厚さの異なるコーティングを作製するため,条件について試行錯誤した.また,耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材に電子線を照射すると接着不具合が一部観察されたため,作製条件を工夫した.宇宙環境として,電子線の照射は高崎量子応用研究所(1号加速器)で照射線量30 MGy(照射線量率2 kGy/s),原子状酸素の照射は神戸大学(研究分担者)で1.00E+20 AO/cm2の照射を行った試験片を準備した.衝突実験は,JAXA宇宙科学研究所の二段式軽ガスガンを用いて行い,衝突実験後の試験片に対して,破壊状況およびイジェクタ(噴出物)の発生を詳しく調べようとした.しかし,コロナ禍の影響で3月末から,衝突実験ができなくなった.2年目(2020年度)も引き続き,コロナ禍の影響を受けてしまい,県独自の緊急事態宣言が発令されていない時期に,密を避けながら実験することになった.JAXA宇宙科学研究所での実験も2度キャンセルになり,1度だけの実験となった.高崎量子応用研究所での電子線の照射予定も,2度キャンセルになり,2年目(2020年度)は,照射が一度も行えなかった.電子線照射の後の原子状酸素照射も,高崎量子応用研究所との日程を合わせるが困難で,兵庫県の緊急事態宣言で,神戸大学へ実験に一度も行けなかった.
|
今後の研究の推進方策 |
2年目(2020年)は,コロナ禍の影響で,電子線,原子状酸素の照射実験(試験片作製)およびJAXA宇宙科学研究所での衝突実験がほとんど進まなかった.コロナ禍を見込んだ運用をするように柔軟に計画,準備を変更し,研究を進めていきたい.3年間の研究期間の最後には,宇宙環境に強い耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材を提案することを目的として,研究を進める.衝突実験による試験片からのイジェクタ発生の解析には,ISO 11227に基づき,ターゲットの 前面に設置された検証板に衝突したイジェクタの圧痕および本研究室で提案している手法(直接法):実験チャンバーから回収されたイジェクタのサイズ分布を解析する方法により詳しく調べる.さらに,高速度カメラの画像,試験片の観察や,超音波およびX線CTによる内部探傷の結果から,宇宙環境の複合効果を明らかにする.メカニズムを考察することにより,ポリイミドCFRPの特性および耐原子状酸素コーティングの特性や膜厚を変化させた試験片を用いて,超高速衝突時にイジェクタ発生が少なくなるような特性,膜厚の組み合わせおよび条件を明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で,試験片の作製依頼,実験の実施が遅れている.急ぎ,研究を進める予定である.
|