電子線,紫外線に強く,耐熱性があるポリイミドを用いたポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材の表面に,耐原子状酸素コーティング(シルセスキオキサン誘導体)を施した材料を宇宙環境に強い材料として提案し,宇宙ゴミを模擬した飛翔体を超高速衝突させ,破壊挙動およびイジェクタ(噴出物)の発生を詳しく調べた.宇宙環境のうち,電子線および原子状酸素に注目し,その複合効果およびメカニズムを明らかにした. 研究期間の1年目は,耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材を作製し,宇宙ゴミを模擬した飛翔体の超高速衝突実験を行い,破壊挙動,主に,貫通孔周りの様子,イジェクタ(噴出物)の発生状況を明らかにした.コーティング厚さ5 μm,20 μmの試験片を作製し,コーティングの影響を調べた.耐原子状酸素コーティングを施したポリイミド樹脂/炭素繊維強化複合材に電子線および原子状酸素を照射し,その試験片を用いた超高速衝突実験を行うことで,貫通孔周りの様子,イジェクタ(噴出物)のサイズ分布を調べた.2年目は,コロナ禍で行動制限の中,コーティング厚さが異なる多種の試験片を作製し,コーティング厚さの影響を詳細に調べた.エポキシ樹脂/炭素繊維強化複合材でもコーティングは有効であることがわかった. 3年目もコロナ禍の中,前年度の結果から適切なコーティング厚さの試験片を用いて電子線照射のみの影響を調べたところ,照射していない試験片に比べて,イジェクタがわずかに短く,個数も少ない場合があることがわかった.宇宙環境により状況が悪化する結果は得られなかった.4年目の2022年度は電子線および原子状酸素の照射量を変化させ,その影響を調べたが,コーティングすることによりイジェクタ発生を抑えられることがわかった.その原因としては,電子線により,樹脂の伸びが低下しているのみであることがわかった.
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