身体運動の軸機関および支持機関である脊椎の疾患に対する診断・治療において,脊椎の剛性を把握することは,適切な治療方針・手術手技を決定する上で極めて重要である.そこで本研究では,脊椎の剛性を力学的観点より客観的・定量的に評価することを目的とし,複雑な脊椎変形挙動を6軸材料試験機を用いて実験的に調査する.特に,本科学研究費申請期間においては,脊椎疾患の一つである棘突起接触症に着目し,棘突起の肥大化を伴う脊椎の剛性を明らかにすることに焦点を絞って研究を実施する. 脊椎は様々な安定要素から成り立っており,その一つに棘突起がある.棘突起は,椎骨の一部で脊椎の後方に位置しており,脊髄の保護や靭帯および筋肉の付着部といった役割を担っている.棘突起は加齢とともに肥大化することが報告されており,この肥大化が進行すると棘突起同士が接触する.この状態を棘突起接触症という.棘突起接触症は高齢者になるほど発生率が高く,棘突起近傍における骨折やそれに伴う痛みを生じることがある.さらに,腰部脊椎症や椎間板変性など他の痛みを伴う脊椎疾患の併発や隣接椎間障害の発生要因となることも危惧される.したがって,棘突起接触症を伴う脊椎の変形挙動を力学的観点より解析し,棘突起の肥大化が脊椎へ及ぼす影響を理解することは極めて重要であると考えられる. そこで本研究では,複雑な脊椎変形挙動を6軸材料試験機を用いて実験的に調査することにより,棘突起の肥大化を伴う脊椎の剛性を明らかにすることを目的とした.シカ屍体腰椎を対象とした前後屈方向の曲げ試験結果から,棘突起接触症では後屈においてのみ脊椎の剛性が高くなることが分かった.また,この剛性の増加により,棘突起接触症を伴う脊椎では,正常状態と同程度の伸展運動を行った際に,正常時よりも大きなトルクが負荷され,隣接椎間における椎間板変性やすべりなどの障害が生じやすくなると推察された.
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