本研究では、骨代謝・リモデリングにおける微視的な分子・細胞の複雑な相互作用と巨視的な組織・器官の適応変化とを関連付けた数理モデルを構築することにより、力学的負荷に応じて骨組織内部で生じる細胞間シグナル伝達、個々の骨構成細胞動態、骨形態変化をコンピュータ上で同時観察することを可能にするシミュレーション基盤の構築を目指し、以下の研究成果を得た。 1.間質液流れによる骨細胞の局所膜ひずみ評価:骨細胞の超高圧電子顕微鏡画像を基に、骨細胞突起と骨細管のイメージベースモデルを構築し、流体-構造連成解析により、間質液の流れを介して生じる骨細胞突起の局所的な膜ひずみ分布を評価した。その結果、間質液流れの方向に応じて、骨細胞突起と骨細管壁とをつなぐ特定のテザリングエレメントに大きな張力が発生することにより、その結合部近傍においてひずみ集中が生じることが示された。 2.皮質骨-海綿骨転換の数理モデリング:加齢にともなう骨量減少の主たる要因とされている皮質骨の多孔化(海綿骨化)の振舞いを理解するため、リモデリングによる皮質骨-海綿骨転換の数理モデルを構築した。本数理モデルに基づくリモデリングシミュレーションにより、局所的な骨吸収と骨形成のバランスの変化が、皮質骨から海綿骨への転換を引き起こすことを明らかにした。 3.骨損傷発展を考慮した骨リモデリングシミュレーション基盤の構築:骨代謝における骨構成細胞動態と骨損傷発展との連成数理モデルに基づき、リモデリングによる骨形態の力学的適応を解析可能な骨リモデリングシミュレーション基盤を構築した。マウス大腿骨海綿骨のリモデリングシミュレーションを通じ、骨量と骨質という複合的な観点から海綿骨の荷重支持機能を評価することが可能になった。 最終年度においては、これまでの研究成果を学術論文としてまとめるために追加の解析を実施し、国際会議に参加して研究発表を行った。
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