研究課題/領域番号 |
19K04087
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
因幡 和晃 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (00408725)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 流体構造連成 / キャビテーション壊食 / サーマルストライピング |
研究実績の概要 |
近年数値解析技術が向上しており,流体構造連成問題およびさらに複雑な熱流体構造連性問題の研究が数多くなされている.本課題では,熱の影響を無視できない材料を用いて,流体から固体または固体から流体へと波動が伝播する連成現象の解明と極限事故に適用可能な境界条件の提案を目指し,固体表面状態の影響や固体の種類を変えて固液連成界面における波動伝播現象の学理を確立することを目的としている. 固体板表面近傍での気泡崩壊現象の解明に向けて剛体,自由表面,金属,高分子など様々な材料を用いた数値解析を行った.固体表面における損傷は,気泡がつぶれる際に生成する衝撃波とジェットが壁に衝突して作用する衝撃力が重畳して,疲労が生じることで損傷の起点となることが報告されている.今回はジェットの向きを予測するために用いられてきた理論式を,様々な境界条件を用いた数値解析に適用できるように拡張して数値解析結果と比較し,ジェットの生成方向を予測できることを確認した.また,固体壁に作用する衝撃荷重を材料の破壊を考慮した数値解析を行って求め,固体壁に作用する荷重履歴をWaveletにより時間周波数分析を行うことで,気泡の固有振動数と衝撃力が固体中を伝播するのに要する振動数が支配的となることを見出した. また,円形や矩形の薄板や厚肉板の空気中での自由振動特性の理論式を発展させて,流体と接する構造物の自由振動特性を予測するための理論式を構築し,流体と接する構造物の過渡的応答と衝撃力を推定するための理論モデルを導出し,数値解析結果と比較して提案した理論式と衝撃力推定方法の妥当性を確認した.さらに,機能傾斜材料の自由振動特性の理論式を導出し,有限要素解析結果と比較して理論の妥当性を確認するとともに,サーマルストライピングなどで問題となる熱・流体・構造連成問題について,流体の数値解析結果を固体側に入力して,疲労に関する考察を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画として,固体板表面近傍での気泡崩壊現象の可視化と衝撃力計測に向けて,数値解析を実施して,理論と数値解析結果がよく一致することを確認した.また,界面の破壊モデル(境界条件)を含めて材料を変えて解析を行い,流体から固体へと伝わる衝撃力を数値解析により求め,過去に福井大学の服部らによって行われた実験結果と比較した結果,最大衝撃力はよく一致している結果が得られ,数値解析による現象の再現,ならびに境界条件の設定が適切に行われていることが確認できた. 流体と接した構造物に衝撃力を負荷すると,流体のダンピング効果により,構造物は,空気中とは異なる自由振動と過渡的応答を示す.レーザー収束により生成した気泡を固体壁に作用させる場合には,流体と接した構造物の自由振動ならびに過渡的応答を評価する必要があり,このような状況を高い精度で高速に推定できる理論モデルが重要となる.今年度,流体と接した薄板と厚肉板の理論モデルを構築するとともに,実験を行い,両者を比較することで,理論の妥当性が確認できた.また,機能傾斜材料を3Dプリンタで生成する方法について,試験片の作成と基礎的な引張試験を実施できた. 以上のことから,当初予定していた計画を達成できていることから,現在までの進捗状況として概ね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
固体板表面近傍での気泡崩壊現象の可視化と衝撃力の推定に向けて,レーザー収束および水中アーク放電により固体壁近傍で気泡を生成・崩壊させて衝撃力を測定する実験を行う.ジェット衝突の際に,連成界面が慣性などにより急激に移動することで界面破壊が起こり,固体に作用する衝撃力は流体ジェットによる圧力から推定する値よりも小さくなる可能性がある.衝撃力の計測結果とこれまでに構築した数値解析手法,ならびに衝撃力を予測するための理論モデルを比較することで,界面の破壊モデル(境界条件)を考慮した衝撃力推定理論の検証と,必要に応じた修正を行う. ポンプ等におけるキャビテーション壊食の補修方法として高分子材料を用いたコーティングがあるが,補修部の寿命評価については十分検討されていない.ポンプ内部にコーティングされた補修材料はキャビテーション壊食のほかに引張負荷も受けることが予想されるため,これらを同時に作用させた引張キャビテーション壊食試験をエポキシ樹脂で行い,き裂進展速度が引張負荷のみ作用させた場合の104倍程加速されることを報告している.この原因は,キャビテーション作用時に試験片内部の温度が最大で90℃と高温となるためで,試験片の温度を変更した実験を行い,き裂進展速度における温度依存性を明らかにする.さらに,3Dプリンタにより傾斜機能材料を製作し,キャビテーション気泡崩壊により試験片の温度が変化することを考慮した熱・流体・構造連成現象の物理モデルを構築して自由振動や過渡応答に関する予測を行うとともに,温度変化の影響による材料物性の変化を考慮した耐熱・耐キャビテーションコーティングの開発に向けた研究を行う.
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