研究課題
本研究では,自己治癒セラミックスの社会実装を達成するために,構造部材としての要求性能と材料の微視組織条件との関連付けを行うことのできるバックキャスティング型材料設計スキームの確立を目指す.その実現のため,2020年度までに,損傷―自己治癒構成モデル”および“破壊統計の数値解析手法” に関するバーチャルテスト(仮想数値実験)の方法論を構築した.まず,損傷―自己治癒構成モデルについて,これまでに対象としてきたアルミナ/炭化ケイ素複合材以外にも,世界的に注目され始めているMAX相セラミックスにも適用できるように拡張した.また,自己治癒セラミックスでは,炎症・修復・改変期を通し,酸化生成物によるき裂充填機能と治癒部の高強度化を達成している.本現象を状態変数の発展則として組み込むにあたり,アレニウス式およびワグナー則に従った酸化反応速度論を採用した.これより,変動する温度・酸素分圧環境下での強度回復挙動の高精度シミュレーションを可能とした. 2020年度は3水準の自己治癒エージェント複合率のセラミックスの実験結果を対象に提案数値解析手法の妥当性の検証を行った.その結果,異なる治癒温度および酸素分圧条件下での強度回復特性を予測し得ることを示した.さらに,自己治癒セラミックスの強度回復の程度を定量的に評価するための逆解析手法を提案するとともに,シェブロンノッチを有する試験片の解析モデルを構築した.他方,自己治癒シミュレーションと同時並行で,焼結条件を制御したアルミナの強度試験と組織観察を実施した.また,3水準の焼結温度条件下および4種類の試験片サイズでのワイブル分布を取得し,有限要素解析に基づく破壊統計の予測精度の検証を繰り返した.その結果,破壊統計の数値解析手法に用いる確率密度関数を規定し終えるとともに,提案数値解析手法の有効性を示した.
2: おおむね順調に進展している
現在までに,当初計画通り進行している.1年目には,種々の自己治癒セラミックスを対象とした弾塑性―損傷―治癒構成モデルを構築する計画であったが,非古典弾塑性論の概念を導入することにより,これを達成した.また,MAX相セラミックスのwedge splitting testの数値シミュレーションに提案構成モデルを適用し,その妥当性の検証も終えている.スピンオフ成果として,シェブロンノッチを有する試験片を用いた強度試験および数値シミュレーションを組み合わせた破壊パラメータの逆解析手法を提案した.本手法によると,これまで困難であった自己治癒セラミックスの強度回復特性の定量的評価が可能となる.これらの内容については,温度環境や酸素分圧環境の影響を適切にシミュレートできることを実証し,国際会議で発表するとともに国際誌に掲載されるに至っている.破壊統計の数値解析手法については,焼結条件を制御したアルミナ/炭化ケイ素複合材の強度試験と組織観察を実施した.2年目には,3水準の焼結温度条件下ならびに4水準の試験片サイズでの破壊強度のワイブル分布を評価するとともに,数値シミュレーションで必要となる微視組織情報の確率密度関数を規定した.また,提案手法の予測精度を検証し,国際会議で発表するとともに,論文としてまとめている.このように,当初計画通り,構造部材としての要求性能と材料の微視組織条件との関連付けを行うことのできるバックキャスティング型材料設計の準備を終えている.また,破壊強度のばらつき予測手法の骨子となる確率密度関数のフィッティングの方法論を構築するため,次年度に向けて極値統計の適用の準備を進めている.
3年目には,種々の試験片を構造部材と見立てた有限要素解析を実施する予定である.具体的には,異物衝突損傷や繰返し引張損傷を対象とし,エンジン内を想定した雰囲気環境での治癒挙動をシミュレートする.得られた結果を基に,“サイズ依存性を加味した破壊統計”,“強度回復の時間依存性”ならびに“繰り返し治癒性”の観点から部材としての要求性能を評価する.さらに,力学的・化学的に整合性の取れたシミュレーションの実現のために,既に提案している構成モデルの熱力学的制約条件についての検討を行う.特に,損傷⇔自己治癒の競合過程を対象に新たな散逸不等式のフレームワークを提案し,発展則の整合性を示す.また,数値シミュレーションと並行して,強度試験と組織観察を継続する予定である.さらに,極値統計の考え方を導入し,CTによる組織観察データを効率的かつ高精度に確率密度関数で近似するための方法論を構築する.最終的に構造部材としての要求性能と微視組織条件との関連付けを行えていることを実証する.またジェットエンジン用部材を対象に,要求性能を満足し得る微視組織条件をバックキャストし,焼結プロセスまで遡った組織設計・制御指針,自己治癒エージェントの選定・複合指針としてまとめる予定である.
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