研究課題/領域番号 |
19K04090
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
浦長瀬 正幸 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (00512766)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶粒界 / 塑性変形 / 量子-古典ハイブリッドシミュレーション / 非平衡系のシミュレーション |
研究実績の概要 |
前年度においてグラフェン粒界を対象として作成した量子-古典ハイブリッドシミュレーションを実施するプログラムを金属結晶およびシリコンなどに代表される共有結合結晶の結晶粒界に適用するためにアップデートをを行い、テスト計算を実施した後、アルミニウム結晶粒界を対象として検討を行い、古典分子動力学シミュレーションとの定量的なずれが生じることを確認した。 また、チタン酸バリウムに代表される強誘電体のドメイン壁は双晶境界でもあるため、結晶粒界の方法をそのまま適用可能であり、実用面においても重要なテーマである。この重要性を鑑み、強誘電体についてのシミュレーションを実施するため、強誘電体でよく用いられるコア-シェルポテンシャルによりエネルギーや力を計算するためのプログラムを実装し、今後量子-古典ハイブリッドシミュレーションに対して活用できるようにした。 密度汎関数理論など量子的手法を用いた分子動力学シミュレーションでは計算コストが非常に大きいため、シミュレーション可能なシステムのサイズに大きな制限が生じる。小さなシステムで変形等のシミュレーションを行おうとすると、その手法の選択によって結果に大きな違いが出てくる可能性があるため適切な手法を選ぶ必要がある。この点について本課題では粗視化手法に基づく新たな非平衡系のシミュレーション手法を開発して固体の1軸変形および不均一な温度場へ適用するためのプログラムを実装し、単純なモデル系にてその妥当性を確認した。この結果については現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
量子力学に基づくシミュレーションに時間を要することは計画段階で認識していたものの、当初の想定より時間が必要であったため量子-古典ハイブリッドシミュレーションについては遅れが生じている。計算時間を削減する一つの方法としてシステムサイズを小さくすることが考えられるが、小さなシステムでは結晶に変形を与える方法等に工夫が必要となる。そこで、新たな非平衡系のシミュレーション方法を開発し、方法の妥当性を確認した。この方法自体に新規性を有する上、これを用いることで今後のシミュレーションに必要な時間を削減できることが期待でき、研究のスピードアップが期待できるため、(3)のやや遅れているという評価区分にした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は本課題の最終年度ということで1年目および2年目で開発したプログラムを用いて量子-古典ハイブリッドシミュレーションにより結晶粒界に起因する塑性変形に関するシミュレーションを継続する。残りの期間を考えると、多くの種類の物質を研究対象とすることは困難であるため、実用上重要かつ利用しているプログラムで研究実績を有するアルミニウムを中心に研究を実施する。 また結晶粒界に関する研究について文献等を調査すると、転位生成に代表される塑性変形の他に、熱伝導におけるカピッツァ抵抗や強誘電体のドメイン壁の移動など、結晶粒界が関係する重要な問題があり、本課題で開発したプログラムを少し変更することでこれらの問題にも適用することが可能であるため、塑性変形とともに取り組んでいく。まず、アルミニウム結晶粒界における塑性変形の量子-古典ハイブリッドシミュレーションを実施している間に、熱伝導や強誘電体ドメイン壁に関する古典分子動力学シミュレーションを実施し、塑性変形のシミュレーション完了後に熱伝導もしくは強誘電体ドメイン壁に関する量子-古典ハイブリッドシミュレーションを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においてワークステーション及びそれに関連するソフトウェアや周辺機器の購入を検討していたが、研究にやや遅れが生じたことから次年度に購入する方が良いと判断し、購入を見送ったことが次年度使用額が生じた理由として挙げられる。また、COVID-19による生活様式等の変化に伴い、前年度に引き続き旅費を使用する機会が得られなかったことも理由の一つである。 使用計画としては、他大学のスパコン利用を申請し、すでに承認が得られているため、その利用料として使用することが既に確定している。また前年度に購入を見送ったワークステーションおよびそれに関連する物品についても購入予定である。さらに英文校閲料や論文投稿料などの論文作成に必要な費用にも使用する予定である。残額については海外渡航が可能であれば海外の学会参加等の旅費等に使用することが可能であるが、渡航が困難である場合は、他大学のスパコン利用料に追加で負担することで、利用可能なスパコン資源を増強し、研究のスピードアップにつなげる方向で考えている。
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