研究課題/領域番号 |
19K04091
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
神谷 庄司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00204628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シリコン / 疲労過程 / 電子顕微鏡観察 |
研究実績の概要 |
本研究は、シリコンの疲労過程をTEM(透過型電子顕微鏡)およびSEM(走査型電子顕微鏡)によるEBIC(電子線誘起電流)の両手法を用いて観察し、結晶欠陥の集積過程を定量的に解析することを目的とする。実験の概要として、まずpn接合を配した薄膜試験片に疲労負荷を与え、SEMを使用したEBIC観察によりすべり変形が生じたことを確認し、その後TEM内でさらに疲労負荷を与えることで結晶欠陥の動きをその場観察をする。そのためにはまず①pn接合を配した応力下TEM観察用小型薄膜試験片、次に②SEM内に①の試験片を搬入できるユニット、の2点の開発が必要である。計画初年度である2019年度は、まず①の開発に必須となるp-n接合の製作条件のチューニングと、それを踏まえて素材となるSOIウエハの選定とを行った。 SOIウエハは活性層、酸化膜層、支持層からなり、目的とするpn接合を活性層に作り込む。この際、そこに生じる空乏層を膜厚内に収める必要があるが、既製品の支持層の厚みはばらつきが大きいため、予備実験として300μm厚のウエハを使用して試作していたpn接合の空乏層幅では、誤差が許容範囲を越える可能性が見出された。そのため、試験片加工プロセスをもう一度精査し、製品の誤差に対応できるように空乏層の幅を狭めた。具体的にはpn接合作製プロセスでのドーパントの拡散抑制のため、イオン注入後のアニールで急速加熱理処理を行った。結果、空乏層幅の縮小に成功し、既製品SOIウエハの活性層幅のばらつきに対応可能となった。SOIウエハの購入は納品まで4か月以上かかるため、2020年度前半に発注購入し、試験片の作製を始める。 一方の②に関しては、上記①の成果を反映し、並行して各部を調整し最終設計を行った。こちらも試験片の製作と並行して2020年度前半に作製着手の予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、2019年度中にpn接合を配した応力下TEM観察用小型薄膜試験片とSEM内に試験片を搬入できるユニットの両方の開発を終え、試験片量産のためのSOIウェハを発注する予定であった。しかし、上記実績概要に述べたように作製条件の調整に手間取ったため、拙速な仕様決定と発注で想定外の事態を引き起こすことを懸念して慎重を期し、実際の購入手続きと作製作業を2020年度に持ち越しとした。 実際、試験片の材料となるSOIウエハの価格が計画作成時の見積もりよりも高くなっていたこともあり、万一予定通りの性能を満たさなかった場合に買い直す予算上の余裕がとれず、慎重にならざるを得なかった。また、具体的な選定作業にあたって当初予期した試験片の設計仕様を確実に満たす既製品が入手できないことがわかり、特注が予算の制約上難しかったこともあって、試験片の作製条件側で既製品に対応するべく再調整を余儀なくされた。SEM搬入ユニットの作製についても、試験片のデザインとすり合わせる必要があったため、試験片製作の遅れに伴い並行して同様に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、2019年度に完成した設計仕様をもとに、材料となるSOIウェハを購入し、試験片およびSEM搬入ユニットの製作を同時進行で行い、進捗の遅れを取り返すことを企図する。 pn接合部分を除く試験片のデザインは、過去の研究で既にTEM観察疲労試験実績がある薄膜試験片の構成と類似のものを用いれば、本研究計画の目的に対しても十分であることが検証されている。また、実際の製作プロセスに関しても、既に文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の支援を受けて同様の試験片を多数作製した実績があるため、材料となるSOIウェハの入手後は速やかに同様の試作と量産が可能となることが期待される。もう一方のSEM搬入ユニットに関しても、試験片設計の詳細が2019年度に固まったため、同じく過去に実績のあるTEM観察疲労試験用のユニットに範をとって、試験片のデザインとすり合わせた形での並行新規作製に速やかに移行できると期待される。これらにより、2020年度中には基本的な疲労試験と結晶欠陥観察に習熟し、研究成果創出の基礎を確立する。 続く2021年度は、2020年度内の手法確立を基に疲労試験と欠陥観察を系統的に実施し、その結果を受けて欠陥の構造解析と力学モデルの検討を行う。すなわち第一段階として、試験片をSEM搬入ユニットに搭載した状態で、恒温槽内の湿潤大気中での圧縮疲労試験を行い、SEM-EBICで結晶すべりの発生と進展を解析する。続いて第二段階として、試験片を既存TEM観察装置に載せ換え、名古屋大学の超高圧TEMで該当箇所を詳細に観察して結晶欠陥の構造を同定するとともに引張荷重が欠陥構造の動きに与える影響を把握し、疲労機構およびその進行過程に基づく疲労寿命の定量評価へとつなぐことをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に消耗品として計上していたシリコンウエハ(SOIウエハ)の選定に当初予期した以上の時間がかかり、納品に4か月以上かかることもあって発注が当該年度中にできなくなったため、購入手続きが2020年度に持ち越しとなった。この分の予算を次年度使用として繰り越しており、繰り越し額は当初計画通りSOIウエハの購入に充てる。
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