2019年度より開始した本研究は、開始後1年も経たないうちにcovid19の感染拡大防止名目で国家権力が基本的人権制限の推奨を強権的に喧伝し、研究代表者が所属する組織もこれに迎合したため、研究期間のうちの少なからぬ間にわたって研究者の自由な行動すなわち我が国の憲法が保障する学問の自由が不当に侵害され、当然の結果として研究活動が停滞する状況となった。このため、当初計画した通りの成果は得られようもなく、研究発表もままならないという大惨事となったが、逆境の中で研究者としてできる範囲の努力を続けた結果、最終年度に至るまでに当初予期しなかった現象を見出すに至り、シリコンの疲労過程に対する認識を改める必要性を世に問う興味深い新規知見をもって、最終年度を締めくくることができた。 シリコンの疲労が結晶すべりに起因することは既に疑いようもなく、その詳細を直視するべく開始した本研究であった。しかし当初計画した観察用のより高度なデバイスの製作が停滞する間に、従来の試験片で継続的に圧縮疲労試験を実施した結果、疲労過程において試験片表面に特徴的な形態の突起群が形成されることが、新たに明らかとなった。これらの中には強い規則性を持った構造が見出されており、金属の疲労過程において特徴的な欠陥構造が形成される現象と同様、繰返しの負荷によってシリコンにも結晶すべりの自己組織化が起きつつ最終的な破壊に至ることを強く示唆する、世界初の観察結果となった。 上記の発見は、シリコンにおける疲労過程の認識を一変させる可能性を持った極めて重要な新規知見であり、本研究により得られた大きな成果と考えられる。この成果の一端は、人権制限がようやく解除された最終年度の学会において発表され、既に開始している次の研究計画における観察にもフィードバックが予定される等、今後マテリアルサイエンスへの大きな貢献が期待できるものとなっている。
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