繊維強化プラスチック(FRP)の樹脂含浸(RTM)成形は最有力な脱オートクレーブ成形法だが,成形プロセスに依存して材料内部に空孔(ボイド)が形成される。このボイドは成形体の機械的特性や強度に影響を及ぼす可能性がある。そのため,成形プロセスに起因するボイドの最小化が実構造への適用における技術課題である。本研究では,RTM成形のボイド最小化を実現するマルチスケール成形解析技術を目指している。 2021年度には,樹脂の入口の圧力(大気圧)と出口(排気側)圧力の差に複数条件を設定して,真空RTM成形による平織ガラスクロスへのシリコンオイルへの含浸を観察する実験データを蓄積し,ガラスクロスの浸透率を実測した。また,熱処理によってガラスクロスに施されているシランカップリング剤を除去し,同様の実験を行った。カップリング剤は濡れ性に影響があり,ミクロの樹脂流動に影響を及ぼす可能性がある。その結果,(浸透率)/(空孔率)というパラメータについて,熱処理の有無によって大きな差はなく計測のばらつきの範囲内だった。したがってカップリング剤は浸透率にそれほど影響しないことが明らかとなった。 繊維基材の浸透率を解析的に予測するため,繊維基材の一部をモデル化して真空RTMを模した粒子法解析モデルを開発した。解析コストの制約から2次元解析において繊維束の織構造を粒子で表現し,濡れ性モデルを適用した。なお,ミクロスケールの樹脂流動の挙動はマクロスケールの浸透率には影響しない結論が得られており,濡れ性の考慮は解析結果に影響しない。樹脂が繊維束内を流れている間,樹脂は多数の繊維との摩擦を受けながら含浸するため,樹脂には繊維から含浸を減衰させる力が作用するとした。複数の条件で解析した結果,(浸透率)/(空孔率)のパラメータは実験結果と一致し,繊維基材の浸透率を解析的に予測する手法を構築した。
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