研究課題/領域番号 |
19K04106
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
田丸 雄摩 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (30284590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スクイーズ効果 / 位置決め / 微動 / 非接触支持 / ピエゾ素子 |
研究実績の概要 |
高精度位置決めを達成するためには摺動摩擦の低減・排除が肝要である.本研究ではスクイーズ効果による空気静圧力を利用することで位置決め対象であるテーブルの支持と微動の両方を浮上による完全非接触で可能にすることを目標とする. 十分な静圧力を得るには高周波振動を加える加振面と静圧力を受ける被加振面相互間の平行度が要求され,負荷容量や微動変位特性の観点からも重要である.そこで,元年度は平行度を高精度に設定する手法や機構の開発に注力した.静圧力を得る条件としては加振面,被加振面の面粗度も重要だが高平面度のガラス基板を加振,被加振パッドとして採用することで解決した.テーブルの支持と微動を静圧力制御,つまり空気膜厚の調整で可能にするのが本研究の特徴であり,そのためにテーブルをくさび状に支持できるように工夫した.具体的には逆ハの字形に加工し,底面両側に被加振パッドを取り付け,左右対称に静圧力を加えることで自重とバランスして静止支持させる.また,微動は左右の静圧力を加減することで可能にした. 一方,加振はピエゾ振動子で与えるが,ピエゾの駆動力を確実に伝達させるため弾性ヒンジを設けた加振機構を設定した.ヒンジ表面には加振パッドを取り付け,この加振面とテーブル底面の被加振面を対向設置させることで浮上機構を成立させた.ここで前述した平行度の確保が課題となるが,加工や組立誤差を完全に排除することはできないため加振面,被加振面相互の角度を一致させる調整手段が鍵となる.そこで加振機構に設置角度調整機構を付加することを検討した.その結果,加振機構とベースの間にゴニオステージを組み込むことが最適と判断し,装置を構築した.平行度の調整はテーブルの浮上高さを試行錯誤的に調べることで行った.ゴニオステージを取り付けず加工や組立精度に頼った装置と比較すると浮上高さが大きくなり,平行度の改善効果が表れた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スクイーズ効果は高周波振動を与えることで簡便に空気静圧力を得られるメリットがあるが,実際に静圧力を得るのは容易でない.空気膜の厚さや加振振幅は数μm~数十μm,また駆動周波数は2kHz程度と高く,精密かつ高剛性な機構設計が要求される.そのような条件の中でスクイーズ効果が確実に生成されていることを確認できたが,そのこと自体で一つの成果を得たといえる.特に微動テーブルは逆ハの字形というユニークな形状をしており,被加振面の傾きに合わせて加振機構を設定するという特殊な構造をとることによって完全に非接触な状態で支持と微動を実現した. 元年度は負荷容量の増大や微動変位の拡大の観点からより十分な静圧力を得ることを目標とした.静圧力を高めるには振動を加える加振面と静圧力を受ける被加振面の平行度の向上が課題となるため加振機構にゴニオステージを組み込む試験装置を構築し,加振面の角度調整を可能にした.ゴニオステージを組まずに加工や組立精度に平行度を頼った装置と比較してテーブル浮上高さが1.6倍程度向上した.またスクイーズ効果の性能指標となる負荷容量では2~3倍の容量向上を確認した. これらの結果は当初計画していた本研究におけるスクイーズ効果の性能改善を示すものである.また,テーブルの鉛直方向の振動振幅についても調べたところ加振と同期した振動成分が卓越していることが分かった.平行度が改善したため被加振面で空気脈動を受けやすくなったためと推察される.スクイーズ効果の性能が向上した副作用といえるが,振動は位置決めには好ましくないので振動抑制の検討が必要である.ステップ応答によるテーブル微動試験では最小分解能に相当する変位で約2.5μm,最大変位ストロークは約75μmを確認した.微動試験については2年度に試験条件を整えて改めて実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
元年度の研究によって加振機構にゴニオステージを組み込み,加振機構の姿勢角度を調整できるようになった.改良の目的は元年度の研究においては加振面,被加振面の平行度を高めてスクイーズ効果の効率を向上させることであり,実際に効果が認められた.本改良は試験装置にとって加振機構の姿勢角度を自由に設定できる効果もある. 2年度はこの効果を活用してテーブルの静圧力負荷角度が負荷能力や微動特性にどのように影響するかを調べたい.微動テーブルの変位ストロークや負荷容量などの駆動性能はこの姿勢角度の影響を受けると考えられ,角度を大きくすると加振面,被加振面に大きな負荷が作用し,変位は小さくなる.一方,角度を小さくするとそれぞれ反対の特性が表れると予測する.前者を傾斜大,後者を傾斜小とすると変位ストロークの拡大が望める傾斜小が理想だが剛性が低下する.剛性低下はテーブル励振の増大を招く可能性が高く,位置決め性能の低下につながる.つまり,傾斜角度はテーブル微動特性に大きく関わると推察する. そこで元年度のテーブル被加振面角度である10度を基準として新たに8度,10度,15度など角度の異なる数種のテーブルを作成し,スクイーズ効果としての性能や微動特性を比較評価したい.試験装置は2対の加振機構で成立しているが,それぞれの加振機構は独立しており個別に相互の間隔や配置を設定できる.また,ゴニオステージは±10度の範囲で調整できるため機構の改造をすることなく調整のみで各種テーブルに対応できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
元年度末に計画していた学会参加が2件あったが,Covid-19の影響でキャンセルになった.静電容量型変位計とピエゾドライバを計上していたが,現有の機器のやりくりで対応できたため導入を見送った.研究進捗の過程で当初計画していなかった防振台が必要になり導入したが前者2品との差し引きでも剰余が発生した. 2年度は高速応答に対応する静電容量型変位計や解析用のデスクトップPCを新たに導入する予定である.さらに3年度には2軸微動試験に対応した実験装置の改良を予定しており,材料調達費用や製作費が相当に必要と予測されるため2年度の使用額を適切に抑えて経費を確保する計画である.
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備考 |
月刊トライボロジー2月号(新樹社),「【特集1】リニアモーション技術」の章に本研究に関連する「ボールねじを使用した位置決めと補正技術」と題した記事を執筆し,掲載された.
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