フェムト秒レーザ光を偏光変換素子と位相差素子を重ね合わせたものに通して、厚さ0.03mmのステンレス板に0.1mmの大きさの十字穴を形成することができた。十字穴を形成するためには、レーザ光に対する偏光変換素子と位相差素子の光軸アライメントを10um程度の精度で行う必要があった。ビーム径2mmに対して、基準のない光学系で10um程度の精度で光学素子のアライメントを行うことは容易でない。本研究では、偏光変換素子や位相差素子がレーザの光軸からズレている様々なケースにおいて、レンズで集光した場合のビームの形状、および、偏光分布をシミュレータによって予め算出した。加工用光学系の調整では、計算で求めたビーム形状を上記の計算結果と比較しながら、十字のビーム形状が得られる方向に素子を移動調整させることで、正確なアライメントを可能にした。 穴加工においては、利用したレーザの出力限界により、厚さ0.1mmのステンレス板に貫通穴を設けることができなかった。厚さ0.03mmの板において、0.1mmの大きさを持つ良好な十字形状をもつ貫通穴を得ることができた。加工条件は、パルス幅100fs、パルスエネルギ 0.065uJ/pulse、照射パルス数8000であった。 位相差素子の配置を変更すると、強度分布は上記のものと同じままで、偏光配置が異なる集光ビームを得ることができる。偏光配置が加工形状に強く依存することを示すためにこのビームを用いて加工実験を試みたが、得られた加工穴の形状は先のものと同じであった。この原因は、ステンレス板が薄すぎて偏光による加工穴の形状に影響が現れず、光強度分布を主として加工が行われたためである。加工形状シミュレーションにおいても、0.1mm程度の厚さをもつ板への深い穴加工において偏光配置の影響が顕著になることが分かっている。
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